研究課題/領域番号 |
18K05536
|
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
遠藤 弘史 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (30567912)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | アノイキス / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
がんの予後を決める転移や再発・浸潤は,癌細胞が足場から離れると誘導される細胞死誘導(アノイキス)に対して抵抗性を獲得することが大きな要因である.つまり,がんの治療において,このような性質を持ったCSCとEMT癌細胞にどのように効果的に細胞死を誘導できるかが重要な課題となっている.そこで本研究の目的は,がんの予後に影響するCSCとEMTをおこした癌細胞の両方を併せてAnchorage-Independent Cancer Cell Group (AICCG)と呼び,食成分がAICCGに細胞死を誘導する詳細なメカニズム明らかにすること.さらに,in vitro,in vivoの両面から抗癌剤と食成分の併用による腫瘍抑制効果の検討を行うことを目的として研 究を計画した. 昨年度は,A549の抗癌剤処理と食成分処理における浮遊生存細胞数を定量的に解析するため,低接着シャーレに細胞を播種して浮遊培養をおこない,MTTアッセイを用いてAICCGと上皮型癌細胞における抗癌剤と食成分による細胞増殖抑制作用の差を定量的に明らかにした.当該年度はEMTに焦点を当てて解析を行った結果,A549細胞を浮遊培養すると,14-3-3-Akt経路を介してアノイキス耐性を含むEMT様の性質を獲得しており,クルクミンは14-3-3-Akt経路を抑制することで,浮遊癌細胞を抑制していることを明らかとした. また,CSCに対しても別の食品成分が薬剤耐性にかかわるトランスポーターの発現を抑制することを見出しており,その詳細な,メカニズムの解析を行っている. 以上の事は学会で発表し,現在論文投稿を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までのin vitroの解析の結果より,A549細胞の足場非依存性能獲得メカニズムが14-3-3-Akt経路を抑制することで起こる細胞死誘導因子BadのSer136のリン酸化によるものであることを明らかとした.一方,A549は浮遊状態で培養することでEMTが誘導されアノイキス耐性を獲得することも明らかとした.クルクミンを処理するとA549はアノイキス耐性を獲得できなくなり,アノイキスに対して感受性が増強した.このことはクルクミンがA549の浮遊培養によるEMT誘導を阻害することも明らかにした. また,癌幹細胞は抗がん剤に対して耐性を持つことが知られているが,クルクミンは癌幹細胞に対しても抑制効果を発揮することを見出している.以上の事からクルクミンは癌細胞の増殖を抑制するだけでなく,浮遊状態で生存するEMT癌細胞と癌幹細胞の両方に効果があることを新たに見出した.このことは,癌の原発巣への抑制効果だけでなく転移や再発に対しても抑制的に作用する可能性を示唆している.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は前年度計画で試行することができていない以下の点について検討する.我々がこれまで明らかにしてきた食成分による細胞死誘導とAICCGが同じメカニズムで起こっているかを検討する.食成分と抗癌剤による癌細胞の遊走・浸潤能抑制効果を検討する.これを定量的に測定するために,AICCGを接着型に培養して8 μm孔のポリカーボネート膜を使用したBoyden Chamber CellMigration / Invasion AssayとWound Healing Assayにより評価する.加えてH30年度に繰り上げて行っていたCSCに対する食品成分の効果について,具体的な細胞内メカニズムを明らかにすることで,その後の動物実験への展開の基礎データ収集を行う予定である. また,食品成分はCSCに対して癌化学療法抵抗性の一因とされる薬剤排出トランスポーターの発現を低下させる作用を有していることを見出しており,現在そのメカニズムの解析を行っている. 以上の事から,今年度は動物実験と幹細胞に対する食品成分の作用メカニズムを明らかにすることと,これまで本科研費で得られたデータを英語論文にして社会に還元していきたいと考えている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究において,CSCの分離および培養で予定外の費用が発生したため,前倒し請求を行ったが消耗品の値引き等もあり次年度使用額が生じた. これは当初の計画通りに最終年度の消耗品費として使用する予定である.
|