研究課題/領域番号 |
18K05540
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
西尾 俊幸 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10256836)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 機能性オリゴ糖 / プレバイオティクス / 特殊オリゴ糖 / スクロースアナログ / ビフィズス菌 / 乳酸菌 / 細菌増殖効果 |
研究実績の概要 |
スクロースのグルコース残基をグルクロン酸やグルコサミンに置き換えた構造を有するスクロン酸やスクロサミンを、グリコシダーゼの糖転移作用やイオン交換樹脂を利用して合成することに成功した。これで、N-アセチルスクロサミンやスクロン酸アミドを加え、4種類のスクロースアナログ二糖を酵素作用などを利用して合成することができるようになった。そこで、これらの二糖についてプレバイオティクス機能を評価する実験を行うことにした。その一環として、まずはヒト腸内由来の8種11株のビフィズス菌と3種の異なる乳酸菌に対するそれらの増殖効果を調べた。その結果、これらの二糖はBifidobacterium infantisやbifidobacterium catenulatumなど特定のビフィズス菌のみを選択的に良く増殖させることが明らかとなった。また、N-アセチルスクロサミンはBifidobacterium pseudocatenulatumのみを特異的に増殖させることが分かった。同様な実験を、1-ケストース、ラクトスクロース、ラフィノースといった実際に使用されている代表的なプレバイオティクスオリゴ糖で行ったが、これらのオリゴ糖にはスクロースアナログ二糖のようなビフィズス菌に対する種特異的増殖機能が見られなかった。このことは、我々の合成した二糖は新しいタイプのプレバイオティクスオリゴ糖になる可能性を示す。 細菌がオリゴ糖を栄養源として代謝するためには、まずそれをグリコシダーゼを使って単糖に分解する必要がある。そこで、上記のような現象がなぜ起こるのか、グリコシダーゼの生産の有無といった観点から調べることにした。その結果、B. pseudocatenulatumを用いた実験から、本菌がN-アセチルスクロサミンを加水分解するβ-フルクトフラノシダーゼを生産する能力を有することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規なスクロースアナログ二糖の酵素利用合成に関し、当初合成を計画していたもののうち「研究実績の概要」に記載した4種類のものについては成功したが、スクロースのグルコース残基をガラクトースやアロースに置換したものについては合成することができなかった。これらについては今後、用いる酵素の種類を変えてさらに検討して行くつもりである。 合成ができた4種類のスクロースアナログ二糖の、各種のビフィズス菌および乳酸菌に対する増殖効果を調べた実験の結果から、これらはビフィズス菌の種特異的増殖特性を示すことが確認でき、従来のプレバイオティクスオリゴ糖には見られないタイプのオリゴ糖であることが明らかとなった。この特性がプレバイオティクスとして有効なものなのかどうか、純粋培養を行ったこのデータだけでは判断がつかない。そのため、今後はさらに様々な実験を行い、スクロースアナログ二糖のプレバイオティクス機能を評価して行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、スクロース構造を基盤として従来のものとは異なる新規なオリゴ糖を酵素反応を利用して合成し、それらのプレバイオティクス機能を評価するため、一連の実験を行っている。 合成目標としていた6種類のスクロースアナログ二糖のうち、4種類については酵素反応を用いた効率的合成法を確立できたが、残りの2種類については未だ合成法を確立できていない。そこで、この2種類のものについて、合成反応を触媒できる酵素の探索を行ってゆくことを計画している。 現在は、合成できた4種類のオリゴ糖について、各種のヒト腸内善玉菌に対する純粋培養系での増殖効果を調べ、これまでに興味深い結果が得られている。しかし、ヒト腸内にはその他にも日和見細菌や悪玉菌など、様々な種類の細菌が生息している。そこで、Clostridium属細菌を中心とした日和見菌について、善玉菌と同様な実験を行う予定である。また、純粋培養による実験だけではプレバイオティクス機能を評価することはできない。このことから、今後はよりヒト腸内環境に近づけるため、様々なヒト腸内善玉菌、日和見菌、悪玉菌を混合した混合培養系にてスクロースアナログ二糖の善玉菌特異的増殖特性を調べて行くつもりである。また、小動物を使った腸内フローラ変化の実験についても着手する予定である。
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