今年度は、昨年度までに神経保護作用とミトコンドリア増強作用の観察された食品由来成分である不飽和脂肪酸を含有するリン脂質類と、ヒストン脱アセチル化酵素(Hdac)阻害作用を有する酪酸、および大豆イソフラボンについて、ミトコンドリア増強作用とそれに基づく神経系保護作用の分子機構に関して検討を行った。 リン脂質については、主に大豆レシチンの代表的な成分であるジリノレオイルホスファチジルコリン(DLPC)を用いて細胞保護効果の分子機構に関する検討を行った。DLPCが神経系細胞であるNeuro2a細胞に対し一酸化窒素(NO)による酸化ストレス誘導細胞死の抑制効果を有することは観察していたが、本年はその作用機序の可能性として脂質類による活性化が知られているシグナル経路に着目して解析を行った。その結果、DLPCは細胞内のPPARγを活性化し、抗酸化作用に関わる転写因子であるNrf2を核に移行させることで酸化ストレスから細胞を保護する作用を示すことを見出した。 酪酸については、昨年までに細胞保護作用とミトコンドリア増加作用において同様の作用が見られたMS275を用いて作用機序の検討を行った。主に細胞保護作用の分子機構を解析したところ、Hdac3の特異的阻害による抗酸化作用に働く転写因子Nrf2の発現を上昇させることで細胞保護作用を示しているという結果が得られた。 大豆イソフラボンの一種であるダイゼインについては、AMP依存性プロテインキナーゼの活性化によるミトコンドリア増加因子PGC1αの活性化がミトコンドリアの増加を誘導し、これが酸化ストレスからの細胞保護に重要であることを見出した。
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