哺乳動物では、遺伝子変異や環境ストレスなどにより頭部が複数のタイプに変形した精子(多形化精子)が産生されることがある。正常精子と形態が異なる多形化精子は、卵子との受精率が著しく低いため、不妊治療の現場で大きな障害となっている。令和元年度は、精子多形化に関わる遺伝子ACRBPに着目し、以下2つのことを解析した。 ①超解像顕微鏡による精子先体タンパク質の局在解析 ACRBP欠損精子の頭部多形化が生じる原因を明らかにするため、超解像顕微鏡をもちいて先体タンパク質の詳細な局在を調べた。野生型精子ではACRBPを含む先体タンパク質は先体顆粒内でドット状のリング構造を形成していた。一方でACRBP欠損精子ではそのリング構造が崩壊しておりそれぞれのタンパク質が分散していた。これらの結果から、精子の多形化の原因に、先体顆粒内のリング構造が関与していることが示唆された。 ②精子多形化の分子メカニズム解析 ACRBPにはグルタミン(E)とグルタミン酸(Q)に富んだ領域(EQ-rich ドメイン)が存在するが、精子多形化との関わりについては不明である。Crispr/Cas9システムを利用してEQ-richドメインの欠損マウスの作製を試みた。EQ-richドメインの27アミノ酸を効果的かつ正確に除去するため、ssODN(一本鎖オリゴヌクレオチド)を設計し、ドナーDNAとしてCrispr/Cas9とともに受精卵へ導入した。導入した受精卵のゲノムをシーケンシング解析したところ、1/8の割合でEQ-richドメインが欠失していることが確認された。この手法により、Crispr/Cas9システムによって特定のアミノ酸部位を除去することに成功した。
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