哺乳動物では、遺伝子変異や環境ストレスなどにより頭部が複数のタイプに変形した精子(多形化精子)が産生されることがある。正常精子と形態が異なる多形化精子は、卵子との受精率が著しく低いため、不妊治療の現場で大きな障害となっている。令和3年度は、精子多形化に関わる遺伝子ACRBPに着目し、以下のことを解析した。 精子多形化の分子メカニズム解析 ACRBPにはグルタミン(E)とグルタミン酸(Q)に富んだ領域(EQ-rich ドメイン)が存在するが、精子多形化との関わりについては不明である。Crispr/Cas9システムを利用してEQ-richドメインの欠損マウスの作製を試みた。EQ-richドメインの27アミノ酸を効果的かつ正確に除去するため、ssODN(一本鎖オリゴヌクレオチド)を設計し、ドナーDNAとしてCrispr/Cas9とともに受精卵へ導入した。導入した受精卵のゲノムをシーケンシング解析したところ、1/8の割合でEQ-rich ドメインが欠失していることが確認された。この手法により、Crispr/Cas9システムによって特定のアミノ酸部位を除去することに成功した。EQ-richドメインを欠損させたマウスを解析した結果、野生型マウスとの大きな違いはなかった。さらに、ゲノム編集過程での副産物として作成された、EQ-richドメインを含むより広い範囲の欠損領域(73アミノ酸)をもつマウスの解析も行った。この73アミノ酸欠損マウスも野生型と同様の表現型を示した。以上の結果から、EQ-richドメインはACRBPの機能には関与していないことが示唆された。
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