研究課題/領域番号 |
18K05553
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
矢部 富雄 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (70356260)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞外マトリクス / プロテオグリカン / 腸管オルガノイド / 食物繊維 |
研究実績の概要 |
「消化管」の形成と機能維持において,上皮細胞の基底膜を構成する「細胞外マトリクス(ECM)」の寄与は大きいと考えられるものの,その分子機構はいまだ不明である。我々はこれまでに,食品成分による小腸絨毛形態変化の作用機序を研究する過程 で,食物繊維のような非吸収性食品成分によって,ECMに含まれる硫酸化糖鎖の構造が変化することを見出している。この発見は,消化管の機能を調節する分子機構に,ECM中の硫酸化糖鎖が介在することを意味する。そこで今年度の本研究課題では,消化管の機能調節の分子機構を明らかにすることを目的として,ECMが硫酸化糖鎖を介して消化管機能を維持するしくみを解明するため,生理的な消化管を再現する腸再構成モデルとして,擬似腸である「マウス腸管オルガノイド」を作成した。 腸管オルガノイドは,パネート細胞 ,ゴブレット細胞,内分泌細胞,吸収上皮細胞という4種類の上皮細胞と幹細胞からなる複雑な構造体を形成するとともに,陰窩と絨毛からなる消化管上皮構造をin vitroで再現するものである。まず,マウスの小腸を取り出して陰窩を回収した後,マトリゲル中に包埋して培養することで腸管オルガノイドを構築した。作成した腸管オルガノイドを構成する細胞中に発現するマーカータンパク質を蛍光免疫染色法により検出し,想定した腸管オルガノイドが構築されていることを確認した。また,構築した腸管オルガノイドの内腔に植物種の異なるペクチンを注入し,クリプト数増加率および面積増加率を測定したところ,いずれも有意な上昇が確認された。以上の結果から,動物実験において観察された結果と整合性がある腸再構成モデルが構築されたことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腸管オルガノイドの構築に最も時間を要すると考え,当初計画していた人工ECM(単純モデル)系の構築に先立ってオルガノイドの作成に着手した。その結果,腸管オルガノイドの構築には成功し,構成するパネート細胞,ゴブレット細胞,内分泌細胞,吸収上皮細胞という4種類の上皮細胞の存在を確認することにも成功した。さらに,すでに動物実験において観察されている,ペクチン摂取時の腸管絨毛の伸長に相当する,クリプト数増加率及び面積増加率の上昇も確認されたことから,腸再構成モデルの構築については,予定を上回って実施したと考える。 しかしながら,人工ECM系の構築については,腸管上皮モデル細胞のCaco-2細胞への遺伝子発現プラスミドの導入に難航している状況である。そのため,平成30年度に予定されていた研究スケジュールをすべて完遂することが出来なかったため,「やや遅れている」という進捗状況の評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
腸管のin vitroモデルとして難航すると予想されたマウス腸管オルガノイドの構築には初年度で成功したものの,人工ECM(単純モデル)系の構築にはまだ至っていないので,今年度はこの構築の障害となっているCaco-2細胞への遺伝子発現プラスミドの導入の最適条件を探ることから始め,当初の予定の分子ツールにより刺激された状態の人工ECM中のヘパラン硫酸糖鎖構造変化の解析につなげていく。また,腸管オルガノイドを用いた糖鎖構造の解析については,最終年度に予定されていた実験を前倒しして実施し,ヘパラン硫酸糖鎖構造変化に関与するリガンド分子をオルガノイドの実験からも探索していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
謝金として当初予定していた50万円に対し,支払われた差額に相当する金額が次年度使用額となった。 次年度使用額については,翌年度分として請求した助成金と合わせて物品費として使用する予定である。
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