研究課題/領域番号 |
18K05554
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
猪熊 健太郎 神戸大学, 先端バイオ工学研究センター, 学術研究員 (90532606)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キチン / N-アセチルグルコサミン / 酵母 / 細胞表層工学 / 動的代謝プロファイリング |
研究実績の概要 |
本研究課題では、甲殻類の殻廃棄物などの未利用キチン系バイオマスの利用促進を目指し、キチンの構成単糖であるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を炭素源および窒素源として利用可能な酵母Scheffersomyces stipitisのGlcNAc代謝経路の解明、代謝改変による有用化合物生産株の構築、キチン分解能力の付与などを行い、キチンからの同時糖化発酵法による有用物質生産プロセスの開発を試みる。 研究計画の2年目にあたる今年度は、初年度に確立した細胞表層工学技術(微生物細胞の表層に酵素などの機能性タンパク質を固定・集積する技術)を用いて、S. stipitisの細胞表層にStreptomyces属細菌に由来するキチン加水分解酵素(キチナーゼ)を実際に固定し、キチン分解能力を付与する事に成功した。 S. stipitisのGlcNAc代謝経路の解析については、初年度に発生した質量分析装置の不具合のために当初の計画よりも実施が遅れていたが、本年度に装置が復旧したことで無事完了する事ができた。さらに、その代謝解析によって明らかになったGlcNAc代謝特性に基づいたS. stipitisの代謝改変も実施した。そして、代謝改変されたS. stipitisの株を用いることで、芳香族の抗酸化物質であり、ポリエステルの原料ともなり得る有用化合物のp-クマル酸をGlcNAcから発酵生産する事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度終了時点では質量分析装置の不具合のためにS. stipitisのGlcNAc代謝経路の解析が当初の計画よりも遅れていたが、研究実績の概要で述べた通り本年度でその遅れを取り戻すことができた。S. stipitisの代謝改変によるGlcNAcからの有用物質生産、及び細胞表層工学技術を用いたS. stipitisへのキチン分解能力の付与についてもそれぞれ順調に成果が得られている。従って、本研究課題の進捗状況はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
細胞表層工学技術を用いたS. stipitisへのキチン分解能力の付与については、細胞表層に固定する酵素やその足場となるタンパク質の種類や組み合わせを検討することでキチン分解能力のさらなる強化を目指す。GlcNAcからの有用物質生産については、すでに生産に成功しているp-クマル酸の生産量を発酵条件の最適化を通じて向上させるとともに、p-クマル酸以外の有用化合物の生産についても検討を行う。そして最終的には、上記の技術を統合した酵母株を構築することで、キチンから有用化合物を直接生産する同時糖化発酵プロセスの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品費の一部を他予算で賄えた事と、有用物質生産のための代謝改変に必要な遺伝子の人工合成数が当初の想定よりも少なく済んだ事による。次年度は標的とする有用化合物を増やす予定なので、生じた次年度使用額はそれらを生産させるための代謝改変に必要な遺伝子の人工合成費用に充てる予定である。
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