本研究課題では、甲殻類の殻廃棄物などの未利用キチン系バイオマスの利用促進を目指し、キチンの構成単糖であるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を炭素源および窒素源として利用可能な酵母Scheffersomyces stipitisのGlcNAc代謝経路の解明、代謝改変による有用化合物生産株の構築、細胞表層工学技術を用いたキチン分解能力の付与などを行い、キチンからの同時糖化発酵法による有用物質生産プロセスの開発を試みる。 最終年度にあたる今年度は、計画の最終目標であるキチンからの同時糖化発酵法による有用物質生産プロセスの開発を試みた。まず、前年度までに構築したS. stipitisのレスベラトロール(Resveratrol)生産株の細胞表層に、細胞表層工学技術を用いてキチン加水分解酵素(キチナーゼ)を提示することで、キチン分解能力を付与した。そして、構築された株を用いて、酸処理により膨潤させたキチン(コロイダルキチン)を基質とする同時糖化発酵法によるレスベラトロール生産試験を実施した。その結果、この株がコロイダルキチンから直接レスベラトロールを生産していることが確認できた。これにより、キチンからの同時糖化発酵法による有用物質生産プロセスの開発に成功し、本研究課題で計画した全ての目標が達成された。 今後は、本研究課題で開発したプロセスの実用化に向けて、S. stipitisを対象とする細胞表層工学技術の改良によるキチン分解能力の強化、代謝改変による標的化合物の生産性の向上、および生産された有用物質の経済的な回収プロセスの開発等を進める予定である。
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