研究課題/領域番号 |
18K05559
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 恵 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (20434988)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糖鎖ポリマー / N-グリカン / 植物抗原性糖鎖 / ルイスa抗原 / Cry j1 / Cha o3 / 花粉症 / Th2 |
研究実績の概要 |
主要なスギ・ヒノキ花粉アレルゲン(Cry j1,Cha o3)は,ルイスa抗原を有する植物抗原性糖鎖を結合した糖タンパク質である。遊離型の植物抗原性糖鎖(M3FX)は,スギ花粉症患者由来Th2細胞の免疫応答を抑制するが,その抑制機構やルイスa抗原含有糖鎖の免疫活性は未だ解明されていない。そこで本年度は,自然免疫系を介したTh2免疫応答の抑制を予想し,ルイスa抗原含有糖鎖による樹状細胞の分化および抗原提示能への影響について樹状細胞様細胞を用いて解析することを目的とした。糖鎖の多量精製,糖鎖ポリマー合成については,以前確立した手法に従った。(1)ルイスa抗原含有糖鎖の多量精製は,ルイスa 抗原含有糖鎖を豊富に有する水草(オオカナダモ,32%)を用い,アミノ酸1から2残基からなる短鎖糖ペプチド(15.7 mg)を精製した。(2)人工糖鎖ポリマーの合成は,担体としてポリ-γ-L-グルタミン酸(γPGA)を用い,短鎖糖ペプチドを縮合させた。ゲルろ過と逆相HPLCにより糖鎖ポリマーを精製し,アミノ酸組成分析により,糖鎖ポリマーには γPGA 1分子につきルイスa抗原含有糖鎖223分子(糖鎖結合率 3.8%)が結合していることを確認した。ポリマーに結合した糖鎖は,ヒドラジン分解後,蛍光標識を行い,構造を確認した。(3)ヒト単球細胞株THP-1から誘導した樹状細胞様細胞は,糖鎖ポリマー(1,10,100 μg/mL)の存在・非存在下で3日間培養を行い,CD86(共刺激分子),HLA-DR(MHCクラスⅡタンパク質)の発現をフローサイトメトリーで解析した。その結果,1 μg/mLのルイスa 抗原含有糖鎖ポリマーは,ポリマー刺激無しの結果と比較して,HLA-DRの発現を有意に促進し,更には濃度依存的にその発現を抑制するという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前確立した手法を用いて,今年度に計画していたルイスa抗原含有糖鎖の多量精製と,その糖鎖ポリマー合成に成功した。また,ヒト樹状細胞様細胞をヒト単球細胞株THP-1から誘導し実験に用いる事が可能となった。ヒトの末梢血を用いた実験系は,個体差が大きく,また実験に使用可能な細胞数が非常に限られていたため,培養細胞を用いた実験系の構築により,培養実験の再現性が得やすくなった。今後は糖鎖ポリマーによる刺激時間を変えて,HLA-DRの発現変化を更に解析する必要がある。アレルゲンの精製については,ピーナッツアレルゲン(Ara h1)の疎水クロマトによる精製過程に,68kDaに加えて,新しいサブユニット(64 kDa)を同定した。スギ・ヒノキ花粉アレルゲンの精製も随時行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果により,人工糖鎖ポリマーはHLA-DRの発現を低濃度で促進するが,高濃度では抑制するという結果が得られた。低濃度では,糖鎖が細胞表面上のDC-SIGNなどのレクチン様レセプターに認識され,糖鎖ポリマーの取り込みと抗原提示を促進し,高濃度では糖鎖自体の細胞への影響が顕著になりHLA-DRの発現を抑制したと推察している。つまり,細胞表面上に抗原ペプチド/HLA-DR複合体は提示されるが,抗原ペプチド/HLA-DR複合体はエンドソームによる分解,あるいはエクソソームとして分泌されると予想している。そこで今後は,(1)植物抗原性糖鎖ポリマーによる抗体作製を試み,糖鎖が抗原提示されることを明らかにし,(2)作成した糖鎖に対する抗体を用いて,エクソソームの解析などを行う予定である。花粉アレルゲン存在下での培養実験についても計画していく。
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