植物抗原性糖鎖の骨格構造であるMan3Fuc1Xyl1GlcNAc2(M3FX)がスギ花粉症患者のTh2免疫応答を抑制する機構を解明することを目的とし,その研究の一環として,Asn糖鎖の多量精製法と,糖鎖ポリマーの合成方法を確立してきた。また,主要なスギ・ヒノキ花粉アレルゲンが発現しているルイスa抗原含有型M3FXによるTh2免疫応答の抑制活性について解析するため,水草(オオカナダモ)の糖タンパク質からルイスa抗原含有型M3FXを多量精製し,糖鎖ポリマーを合成し,樹状細胞様細胞の抗原提示やmaturationへの糖鎖ポリマーによる影響を解析してきた。令和元年度は,水草と比較してエンドトキシン混入の可能性が低く,貯蔵タンパク質を多く含む食用のイモ類の糖タンパク質糖鎖の構造解析を行い,サトイモ由来糖タンパク質糖鎖にはルイスa抗原含有型M3FXが存在しており,重量当たりの収量は約0.4 nmol/gで,オオカナダモ由来糖タンパク質糖鎖と同程度であることを明らかにした。令和二年度は,サトイモ糖タンパク質より,ルイルa抗原含有型M3FXの多量精製を行った。また,主要な食物アレルゲンであるピーナッツアレルゲン(Ara h1)は,植物抗原性糖鎖(M4X)を発現しており,その精製過程に既報の63 kDaのサブユニットに加えて,N末端を欠いた54 kDaの新しいサブユニットが精製された。免疫ブロット解析により,ピーナッツアレルギー血清中には,両サブユニットに結合するIgEが存在するが,非アレルギー血清には63 kDaサブユニットに結合するIgEが存在しないことが明らかになった。この結果から,63 kDa Ara h1のN末端ドメインにアレルギー発症に関与するエピトープが存在することが推察された。また,Ara h1の植物抗原性糖鎖に結合するIgEを持つアレルギー症例が9例中1例に見出された。
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