イネの異種間交雑により得られる雑種は花粉および種子が不稔となる。この現象は雑種不稔性と呼ばれ、イネにおいては生殖隔離障壁を形成する機構の一つとなっている。生殖隔離障壁は植物の品種改良を行う際の大きな妨げとなるため、この機構を分子遺伝学的に解析することは育種上のメリットが大きい。 本研究では、4倍体のイネにおいて雑種不稔性がどのように機能するかを明らかにすることを目的としている。昨年度までに、4倍体のイネ雑種を作出し、この雑種を純系個体と戻し交配することにより、雑種配偶子に生じる分離の歪みの解析を行った。しかしながら、多くの戻し交配種子において、受精後の退化現象が生じ、正常な種子をほとんど得ることができなかった。そこで、一つの雑種不稔遺伝子に着目し、4倍体における雑種不稔遺伝子の効果を検証することとした。このことを行うために、雑種不稔遺伝子の準同質遺伝子系統を用い、コルヒチン処理により4倍体を作出した。本年度は、作出した準同質遺伝子系統の4倍体と、純系の4倍体の交雑を行い、雑種個体における花粉稔性及び種子稔性を調査を計画した。しかしながら、作出した雑種個体では当初想定していなかった生育異常が見られ、稔性を調べることが困難であった。 並行して、イネの主要な種間雑種不稔遺伝子座であるS1座の原因を特定するために、遺伝子組換え体を作出し、個体の花粉稔性及び種子稔性の調査を行った。これまでに得られた遺伝子発現情報から不稔性への関与が考えられる候補遺伝子(Gene 1)に加え、他の候補遺伝子(Gene 2)が存在する場合に雑種不稔性が生じることが示唆された。さらに、形質転換を用いた実験により、これら遺伝子が雑種不稔を誘導することを確認した。また、他の雑種不稔遺伝子(Gene B)について、ゲノム編集を用いた変異体の作出を行った。
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