研究課題/領域番号 |
18K05576
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山形 悦透 九州大学, 農学研究院, 准教授 (00600446)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 雑種不稔 / 接合後生殖的隔離 / 減数分裂 / O. glaberrima |
研究実績の概要 |
T0およびT1世代の形質転換体を用いたS18BとS18Tの相補性検定の追試によりS18遺伝子座が遺伝子複合 (gene complex)からなることを再現性をもって担保した。強度の花粉不稔を示すS18ヘテロ接合体の詳細な顕微鏡解析を行い、タペート崩壊の遅延と不完全な消失が不稔個体にて起きていることを突き止めた。またS18BおよびS18T座の免疫抗体染色による詳細な局在解析を行った結果、これらは生殖細胞およびタペート層にて働いていることを突き止めた。単離遺伝子の生化学的な機能については不明な点が多いが、発現解析などで、生殖細胞の発達に必須の機能を持つ転写因子群の発現を制御していることを見出した。S18BおよびS18Tのいずれかはこれら転写因子群の上流で働く胞子体世代での機能を有するとともに、減数分裂以降の配偶体世代において分離ゆがみを引き起こすことから、雄性配偶子形成において幅広い機能を有する遺伝子であることが示唆された。これらの遺伝子のcanonicalな機能を明らかにするため、日本型栽培イネ台中65号(T65)にCRISPR/Cas9による突然変異誘発を行い変異体とその後代を得ることができたので、遺伝的機能の解明に着手する準備を整えることができた。 上記の実績に加えて、さらなる進化的起源の解明をすすめるため、副次的な成果を得た。S18座のAAゲノム種におけるハプロタイプを解析するための材料として、O. glaberrima, O. rufipogon, O. nivaraにて各1アクセッションずつ、くわえてO. longistaminataの2アクセッションの染色体断片導入系統を育成し、S18座のハプロタイプの進化と遺伝的機能の解明に必要な材料基盤の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<研究項目1> S18BとS18Tの相補性検定を行い、T0およびT1世代の検定を行った。S18Tの相補性検定については、候補原因遺伝子のゲノム領域をさらに限定したゲノムコンストラクトを作成し、遺伝子導入実験を行ったところT0世代にて表現型を再現できたが、解析対象の形質が花粉不稔であり、後代自殖種子を得ることができなかった。昨年度の結果とも合わせて、二回の独立した実験により再現性を担保した。これらの結果から、当初高精度連鎖解析により提案されていた、S18遺伝子座が遺伝子複合 (gene complex)からなる仮説を補強できた。 <研究項目2> 単離した遺伝子に関して、日本型栽培イネ台中65号(T65)にCRISPR/Cas9による突然変異誘発を行った。当代における表現型観察を行ったが、冬季の試験であったため表現型に一貫性が見られなかったが、次代における形質評価の再実験を行うため、交雑種子をえた。 <研究項目3> S18BとS18T、および生殖細胞発達時期に発現が知られている主要な遺伝子についてQRT-PCRによる転写産物の測定を行った。タペート崩壊に関与するEAT1遺伝子に発現変動がみられた事から、S18BとS18TはEAT1などの生殖細胞で働く遺伝子の発現を制御し、結果的に高不稔を引き起こすことが明らかとなった。S18Tタンパク質の抗体を用いた免疫抗体染色を行い、タペート層での発現を観察することができた。タペート崩壊に伴うプログラム細胞死の検出をTUNEL解析にて試みたが信号の検出には至らなかった。一方、樹脂包埋による形態的観察からタペート崩壊の遅延が起きていることを明らかにしたので、必ずしもTUNELの証明は必須ではないと考えた。S18Bは微小管と関連していることが示唆されたが、微小管の蛍光観察について抗体の種類や条件検討を行っているが、観察に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
<研究項目1> 現在得られているデータを総合的に見ても、当該領域に関連のある変異は順遺伝学的には、S18BとS18Tのみの関連が示唆され、その他の因子の関与はほぼないと思われる。二因子による雑種不稔の十分性を確認することで、仮想的な未同定因子の存在を否定したい。O. glaberrima由来のゲノムあるいは遺伝子領域のクローニングを行う。 <研究項目2> CRISPR/Cas9によるS18BおよびS18T遺伝子欠損変異体の評価を進める。またO. glaberrimaのコアコレクション品種群のハプロタイプ解析をすすめて、S18BおよびS18Tの原因変異の候補が自然集団内にどれだけ浸透しているかを調査する。 <研究項目3> S18Bは分離ゆがみに関与していることが示唆されているが、高精度連鎖解析の後代検定の結果を詳細に検討すると、分離ゆがみが起こる時期は減数分裂期の可能性をこれまで考えてきたが、花粉形成期から受精の時期の可能性が示唆された。O. glaberrimaアレルの減少がおこる時期を特定するため、各発育ステージにおける対立遺伝子の計数をシーケンサー等を用いて行う。 現在得られているデータについて投稿論文の作成を行っているので、年度の早い時期に投稿を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在論文を作成しており、年度末に英文校閲および投稿料を計画していたため、20万円程度の未執行の研究経費が生じた。令和2年度は当初計画に、英文校閲費用および投稿費用を上乗せする形で研究経費の執行を計画している。
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