研究課題/領域番号 |
18K05578
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
横井 修司 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80346311)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イネ / 環境需要 / 温度 / 出穂(開花) / 分子メカニズム |
研究実績の概要 |
イネの相転移は地上部と地下部の環境要因を区別して受容して調節されている可能性、軽度な環境ストレス(日照・水不足や栄養素の過不足など)が緊急経路として花成誘導を調節する可能性、の2点について表現型から分子メカニズムに至るまでの経路として解明することを目的として研究を行った。 イネ品種の日本晴、あきたこまちの2品種を用いた。人工気象室で短日条件(明期10h、30℃ 暗期14h、28℃)のもと、育苗を行った。その後、水温制御装置を用いて地下部(水深15 cm)の水温を20℃一定にした処理区に栽培を行った。コントロールとして、地下部(水深15 cm)の水温を制御しない処理区でも栽培を行った。移植後から、生育速度指標として1週間毎に葉齢と草丈と分げつ数の表現型を調査した。また表現型調査と並行して葉のサンプリングを行い、RNA抽出を行った。生長段階でHd3aの発現量がどのように変化しているのかを解析した。 地下部の水温を20℃の一定にした環境で栽培をした個体は平均64.4日で出穂し、地下部の水温制御なしの個体は平均88日で出穂した。出穂時の葉齢は、水温の20℃の個体は13.01、水温制御なしの個体は13.02となった。出穂時の草丈は、水温の20℃の個体は88.7、水温制御なしの個体は98.7となった。出穂時の分げつ数は、水温の20℃の個体は7.8、水温制御なしの個体は8.0となった。水温20℃と水温制御なしを比較すると、出穂までの日数に違いは出たが、出穂時での葉齢、分げつ数、草丈には違いが見られなかった。これはイネが出穂を日数ではなく、葉齢や分げつ数や草丈などの成長具合で決めていると考えられる。また,イネは温度条件をエピジェネティックに記憶し,次世代で生育速度とは独立して開花関連遺伝子の発現タイミングや量を調節して出穂日を変化させることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の調査は,日長・地上部と地下部の温度差による相転移の表現型の解析:イネ品種を用いて日長条件(長日・短日)、温度条件(地下部とする茎頂以下の水温の高低・地上部とする気温の高低)を組み合わせた様々な処理区を設け、幼若栄養生長相 から成熟栄養生長相、その後の生殖生長相への相転移時の形態変化を指標(葉序、葉位、葉の縦横比、葉に占める中肋の割合、 茎頂の大きさなど)として調査し、相転移の要因が温度によるものか、日長によるものか、地上部によるものか地下部によるも のかを再現性を確認しながら調査することを計画し,実施した。 出穂時での葉齢、分げつ数、草丈には温度の違いによる違いが見られなかったが,出穂までの日数に違いが見いだされた。これはイネが出穂を播種後の日数ではなく、葉齢や分げつ数や草丈などの生長段階を把握して決定していると考えられる。 また,環境ストレスが次世代の種子に記憶されるメカニズムを明らかにするため,環境条件を一定あるいは変化させて世代を促進したイネを材料に,表現型の解析と分子生物学的な解析を行った。調査結果から,日本晴とゆきひかりでは,生育速度は当代の温度に同調するが,出穂日は前世代が長日高温区の場合に出穂が遅れるということが明らかになった。 遺伝子発現解析において,前世代を高温区で栽培したイネでは,花成ホルモンとされるHd3aの発現や長日条件下での開花抑制因子として知られるGhd7の発現が発達段階における早い時期から検出される,あるいは発現量のピークが早まる事が明らかになった。本実験の結果により,イネは温度条件をエピジェネティックに記憶し,次世代で生育速度とは独立して開花関連遺伝子の発現タイミングや量を調節して出穂日を変化させることが明らかになった。 上記のようにイネの環境受容に新しい知見を加えることが出來,順調な進捗と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の研究を予定している。 (1)軽微なストレスによる相転移の表現型の解析:イネ栽培品種あきたこまちを用いて日長条件(長日・短日)を一定にし、ス トレス条件(寡照、塩など)を組み合わせた様々な処理区を設け、幼若栄養生長相から成熟栄養生長相、その後の生殖生長相へ の各相転移形態変化を上記の1)と同様に調査し、日長とストレス処理の組み合わせによって相転移の早晩がどのように調節さ れるかを明らかにする。2)相転移関連遺伝子群の遺伝子発現解析・タンパク質の局在解析(イネ品種あきたこまち・Hd3a-GFP形質転換体):表現型調 査と同時にサンプリングを行い、既知の花成関連遺伝子、ストレス関連遺伝子の発現量の調査を行う。このときの処理は表現型 確認用の個体の表現型をモニタリングしながら、同処理区内にサンプリング用の個体を用意してサンプリングを行う。発達ステ ージ(発芽直後から出穂後まで)・器官毎にHd3aの局在解析をGFPの蛍光観察によって行い、表現型とGFPの発現場所や発現量と の相関を考察する。 4)茎頂での花器官形成下流遺伝子群の発現解析(イネ品種あきたこまち・Hd3a-GFP形質転換体):葉身での温度変化と茎頂で の複合体形成が下流の花器官形成に関わる因子を誘導しているか否かを調査し、表現型の妥当性を評価する。 これにより、地上 部と地下部でのシグナルのフローと最終的な花成へのつながりを確定させることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
圃場での栽培の資材の再利用の促進,分子生物学実験での試薬の作製や使用に工夫を行い,実験精度を低下させること無く,資金を削減して実験を行った。また,旅費に関しては学内の教育費によって得られた旅費を使用したため,当初計画よりも経費を使用する事無く成果発表を行う事ができた。 削減した経費は,本年度の調査で使用する温度管理設備に回し,実験精度と実験調査個体数を増加させるために使用し,成果をより精度の高い物にする計画である。
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