研究実績の概要 |
植物は外界からのシグナルによって季節を判断して花を咲かせる準備をする。イネでは短日条件で地上部の葉で花成ホルモンが作られ, 地下部の茎頂で作用して幼穂形成が促進される。先行研究ではイネにおいて栄養成長期の水温が次世代の出穂時期に影響を与えることを見いだしており, 前世の水温が低かった場合次世代では出穂が早くなった。しかし, その分子メカニズムは未解明なままである。本研究では環境ストレスが次世代の種子に記憶されるメカニズムを明らかにするため, 環境条件を変化させて世代を促進したイネを材料に, 表現型の分析と分子生物学的な解析を行う。 本年度は,以下の1世代目の生育と調査を行った。2品種(日本晴,ゆきひかり)とも水温が高い方が葉齢の進み方と出穂日がはやく, 高水温がイネの葉の展開スピード, 出穂までにかかった日数を促進することが分かった。早生品種のゆきひかりの方が晩生品種の日本晴よりも出穂日が早くなることが再現できた。出穂までにかかった日数の比率は2品種とも高水温区と比較して低水温区で1.15倍増加し, 比が等しくなった。人工気象器で気温条件を変えてイネ‘日本晴’, ‘ゆきひかり’, ‘キタアケ’の3品種を栽培した実験では出穂までにかかった日数の比は等しく表せなかった。イネの地上部を一定にして地下部の温度を変えることで, 地上部からの開花促進のシグナルは一定となったため比率が一定になったと考えられる。出穂時の葉の枚数は低水温で約1枚少なくなった。これは低水温区では葉齢に対して幼穂形成のタイミングを早くしようとしたためであると考えられる。この現象は生長スピードが他の個体より遅い個体で見られ, 葉の枚数を減らして出穂を調節する可能性がある。葉の長さは低水温区と比較して高水温区で5~10cm長くなった。水温が葉の長さに影響し, 葉の細胞の分裂と関与する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,温度のストレスに注目して研究を行った。表現型の調査は,順調に進んでおり,地下部の低温と高温のそれぞれの温度のイネ相転移への影響は明らかになりつつある。 地上部からのシグナルの発現パターンを見るための地上部の葉の定期的なサンプリングと茎頂の定期的なサンプリングを順次行い,表現型の調査を行うまで-80℃で保存している。しかし,新型コロナの発生と感染拡大防止のための措置による大学の閉鎖に伴い,思うような実験が進んでいない。 表現型の調査では,興味深いことに,出穂時の葉の枚数が低水温で約1枚少なくなるという現象が一定の確率で,しかも地下部への低温処理の期間に依存して生じている可能性を見いだした。これは低水温区では葉齢に対して幼穂形成のタイミングを早くしようとしたためであると考えられる。この現象は生長スピードが他の個体より遅い個体で見られ, 葉の枚数を減らして出穂を調節する可能性がある。 葉の長さは低水温区と比較して高水温区で5~10cm長くなった。水温が葉の長さに影響し, 葉の細胞の分裂と関与する可能性がある。この現象が品種によるものであるのか,温度によるものであるのか,記憶として次世代に残るものなのかを検証していく事件を行った。出穂時に一枚葉数が減少する個体では,葉の長さが長くなることが見いだされ,出穂時に葉数が減少することを葉を長くすることで保証する,あるいは一枚の葉を出現させるための期間が長いことから生じる現象なのではないかと考察した。 以上のように,表現型の調査は順調に進んでいるが,遺伝子解析をする段階になって新型コロナの発生に伴う研究の停止が生じ,上記区分のように少々遅れているとの評価に至った。
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