研究課題/領域番号 |
18K05585
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
上田 忠正 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 主任研究員 (80355750)
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研究分担者 |
安達 俊輔 東京農工大学, 学内共同利用施設等, 特任助教 (30717103)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気孔電導度 / 個葉光合成速度 / Tilling変異体 / ゲノム編集 / 準同質遺伝子系統 / 水稲 |
研究実績の概要 |
単離を目指している気孔伝導度を高めることにより個葉光合成速度を増加させる第10染色体のQTLをHP10と名付けた。 コシヒカリのTilling集団のスクリーニングによって、2つの候補遺伝子Beta-carotene hydroxylase (BCH3)およびOrnithine cyclodeaminase-like protein(OCD)に関する変異遺伝子ホモ個体を選抜した結果、BCH3ではストップコドンを生じたノックアウト変異体を含む3系統、OCDでは3系統の変異遺伝子ホモ系統を選抜した。本年度はそのうち生育期が揃ったそれぞれ2系統、1系統について個葉光合成速度及び気孔伝導度を測定したところ、ノックアウト変異体を含め、全ての系統で、変異遺伝子ホモ系統と野生型ホモ系統において光合成速度と気孔伝導度に有意な差はなかった。 ゲノム編集により生じた変異集団の中より、BCH3遺伝子及びOCD遺伝子に1塩基挿入によりフレームシフトを起こした変異遺伝子をヘテロ型で持つ個体の後代集団の中から、変異型ホモ個体と野生型ホモ個体を選抜した。今年度はBCH3の材料が間に合ったので、その後代を生育し、光合成速度と気孔伝導度を測定した。変異型ホモ系統と野生型ホモ系統の光合成速度・気孔伝導度を比較した結果、光合成速度と気孔伝導度に有意な差はなかった。 これらの結果から、Tilling変異体及びゲノム編集系統を用いて、目的形質の原因遺伝子の特定はできなかった。 コシヒカリを遺伝背景にシンクサイズ関連遺伝子(Gn1,GW2,APO1)とソース能関連遺伝子(HP10,GPS)を導入した準同質遺伝子系統(NIL)及びそれらの集積系統を作成し、圃場にて収量の調査を行ったところ、NIL(GW2+HP10)はNIL(GW2)に比較して、有意に籾重/全重が増加した。Gn1やAPO1では同様の効果は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はTilling変異体及びゲノム編集により生じた変異体を用いて、個葉光合成速度や気孔伝導度を測定を行い2つの候補遺伝子のうちどちらの遺伝子が原因遺伝子であるかを決定する予定であったが、変異体と野生型植物間で形質の違いを見いだすことができず、原因遺伝子の特定に到らなかった。 Tilling変異体については光合成測度と気孔伝導度で差がみられなかったのは、遺伝背景に生じた変異が影響している可能性がある。またゲノム編集により生じた変異体については種子が採れにくいことからOCD遺伝子の変異体に関しては、まだ形質評価を行なっていない。
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今後の研究の推進方策 |
Tilling変異体については、変異遺伝子をd-CAPSマーカー化し、変異遺伝子を確認しながらコシヒカリを少なくとも3度交配し、遺伝背景に生じた変異の影響を受けないようにする。 ゲノム編集による変異体の後代でまだ光合成速度及び気孔伝導度の測定していないものがある(特にOCDの変異体についてはまだ形質評価をしていない)ので、それらを測定し原因遺伝子を特定する。 また遺伝背景がコシヒカリ型でHP10領域を含む50-kbのゲノム領域がタカナリ型に置き換わった同質遺伝子系統IL(HP10)を作出したので、これの個葉光合成速度や気孔伝導度を測定するとともに、光合成能力に影響を与えるSPADや葉に含まれる窒素量を調査する。 作夏、集積系統を新たに作成したので、圃場にてそれらの収量調査を行い、コシヒカリに比べて有意に収量関連形質が改善したものを探す。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費を20万円計上していたが、そのうち半分は研究所の他予算で賄うことができた。その他として、光合成測定装置のメンテナンスを10万円計上していたが、研究所の他予算から出した。旅費で5万円計上していたが、今年は思うような結果が出せなかったため、学会発表を行わず、研究打ち合わせのために東京へ出張しただけであったので、数千円を科研費より支出しただけであった。その結果、244573円の次年度使用額が生じた。 来年の研究費は、合計944573円になる。そのうち20万円を研究分担者に配分し、物品費29万円、旅費5万円、人権費・謝金30万円、その他10万円の使用計画で研究を行いたいと考える。
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