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2020 年度 実施状況報告書

反射分光指数(PRI)を用いた植物の環境ストレス評価

研究課題

研究課題/領域番号 18K05592
研究機関東北大学

研究代表者

上妻 馨梨  東北大学, 生命科学研究科, JSPS特別研究員(RPD) (70704899)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード光合成 / 分光反射 / 熱放散 / 環境応答
研究実績の概要

温室効果ガス増加に起因した気候変化による地球の温度上昇が問題視されがちであるが、農業現場においてはコンスタントな温度上昇よりも近年多発している一過的な高温・低温や干ばつの頻度の増加などの「極端現象」が食糧生産により深刻な影響を与えている。そのため、変動する気象環境下において、植物のストレス状態を瞬時に検知し、それぞれの問題に対処する必要がある。しかし、現存する手法では、これらをリアルタイムに検出できない。そこで申請者は反射分光指数(PRI)を用いて、植物の環境ストレスをハイスループット検出する新規の測定法の開発を試みた。
これまでの研究において、PRIが光合成色素であるキサントフィルの変化(キサントフィルサイクル)を特異的に検出するパラメータであることを生理学的に明らかにした。また、それを検証するためにクロロフィル蛍光解析と分光反射解析を同一光源下で同じ植物領域を同時測定する手法を確立した。キサントフィルサイクルは植物が余剰な光エネルギーストレスを受けた際にそのエネルギーを熱へ変換し散逸する熱放散を制御する分子メカニズムである。キサントフィルの挙動は植物の余剰エネルギーストレスを反映することから、まず、人工気象器レベルで植物にストレスを与えた時のPRIと実際の光合成応答との相関を確認した。さらに、圃場レベルにおける植物ストレス応答をハイパースペクトルカメラを用いて広範囲で可視化した。
本年度においては、余剰エネルギーストレスだけではなく、カビの感染といった生物的ストレスの検出を試みた。植物が菌核菌に感染するとキサントフィルサイクルが誘導することが報告されている。そこで菌核菌を植物に塗布し、ハイパースペクトルカメラを用いてPRIを撮影した結果、感染を可視化することができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題の目的はPRIパラメータを用いて、植物の環境ストレスをイメージングすることである。
最初にPRIが何を検出しているパラメータであるのかシロイヌナズナの光合成関与変異体を用いて生理学的な検証を行った。その結果、PRIは光合成色素であるキサントフィルの変化を特異的に検出していることが明らかになった。
キサントフィルサイクルは植物が余剰な光エネルギーストレスを受けた際に誘導される。そこでPRIを用いた植物のストレス検出を試みた。これまでPRIは生態学の分野で森林生態系の光合成量を見積もるために活用されてきた。しかし、PRIシグナルはクロロフィルなどの他の光合成色素の季節変化の影響を受けるため月単位の植物の生理応答をモニターすることは困難であった。申請者は農業分野における作物のストレス検出を想定し、スイカやトウモロコシといった耐性植物を用いてPRIによる一過的なストレスの検出を試みた。夏季に強光下で生育した作物に乾燥ストレスを付与し、ハイパースペクトルカメラを用いてPRIの挙動を可視化した。その結果、ストレスを与えた区画において数時間から数日単位でPRIの大きな変化を確認した。
本年度は、強光乾燥ストレスなどの非生物的ストレスだけではなく、糸状菌(カビ)の一種である菌核菌を感染させる生物的ストレスの検出試験を行った。菌核菌が作物などに感染する菌核病は宿主特異性がなく400種類以上の樹木・作物に感染することが確認されており、林業や農業での生産低下の原因になっている。植物に菌核菌が感染すると感染部位のキサントフィル色素に変化が起こることが報告されていることからPRIによる検出が可能であると着想した。実際に、植物に菌核菌を塗布し、PRIの経時的な変化をハイパースペクトルカメラで撮影した結果、感染拡大を可視化することができた。

今後の研究の推進方策

数時間から数日単位の環境ストレス下においてPRIとキサントフィルサイクルの変化には高い相関関係があることが明らかになったが、秒から分単位においてキサントフィルサイクルの変化をPRIがどのくらいの精度で反映するか不明である。キサントフィルサイクルは暗色下から光環境に移した時と、光環境から暗色下に移した時で反応速度が大きく異なることが知られている。PRIがこの反応に対してどのように応答するのか検証を行う。光強度が変化した時の熱放散(NPQ)、PRI、キサントフィルの時間変化を定量的に解析しモデル化することで、天候が時々刻々と変化する野外の作物栽培環境におけるストレス状況を予測する。

次年度使用額が生じた理由

今年度はコロナウイルス蔓延の影響ですべての出張がキャンセルになった。特に今年参加する予定だった国際学会が延期になったことから出張費に使用する予定だった予算を次年度に繰り越すこととした。来年度も遠方への出張は見込めないことから、繰り越した予算はその他の用途に使用する。特に技術補佐員の雇用にあてる予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2021 その他

すべて 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [学会発表] 分光学的解析による光合成挙動の可視化2021

    • 著者名/発表者名
      上妻薫梨
    • 学会等名
      岡山大学資源植物化学研究所共同研究ワークショップ
    • 招待講演
  • [備考] 研究紹介(上妻馨梨) 植物の光合成

    • URL

      https://kohzuma.wixsite.com/kaorikohzuma

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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