温室効果ガス増加に起因した気候変化による地球の温度上昇が問題視されがちであるが、農業現場においてはコンスタントな温度上昇よりも近年多発している一過的な高温・低温や干ばつの頻度の増加などの「極端現象」が食糧生産により深刻な影響を与えている。そのため、変動する気象環境下において、植物のストレス状態を瞬時に検知し、それぞれの問題に対処する必要がある。しかし、現存する手法ではこれらをリアルタイムに検出することが困難である。そこで申請者は反射分光のパラメータの1つであり530nmの変化を検出する光化学反射指数(PRI)を用いて、植物の環境ストレスをハイスループットモニタリングする新規の測定法の開発を試みた。
PRIは光合成色素であるキサントフィルの変化(キサントフィルサイクル)を特異的に検出する指標である。申請者はクロロフィル蛍光解析と反射分光解析を同一光源下で同時測定する手法を確立し、シロイヌナズナの変異体を用いることで、それらを生理学的に検証した。キサントフィルサイクルは植物が余剰な光エネルギーストレスを受けた際にそのエネルギーを熱へ変換し散逸する熱放散を制御する機構であることから、キサントフィルの挙動変化は強光や乾燥といったの植物の環境ストレスを反映する。
これらの植物の環境応答の変化をハイパースペクトルカメラを用いて可視化した。特に本年度は、野外におけるトウモロコシ群落の乾燥ストレスと再潅水によるストレスの緩和のリアルタイムなイメージングの結果を論文として報告した。またヤブツバキの群落を作製し、群落におけるPRIのばらつきに関する詳細なデータの取得、光誘導時のPRIの即座の応答のキネティクス解析も行った。
|