研究課題/領域番号 |
18K05597
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
東江 栄 香川大学, 農学部, 教授 (50304879)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アイスプラント / CAM型光合成 / 形質転換体 / ストレス耐性 / 生物時計 |
研究実績の概要 |
本研究は,CAM(ベンケイソウ型有機酸代謝)にみられる概日リズムを制御する分子機構を明らかにし,CAMを駆動してストレス耐性を増強した作物を創出することを目標とする.そのために,CAM関連遺伝子の発現を制御するシスエレメント配列及び転写因子を同定し,C3植物にCAMを駆動させるために必要な因子を明らかにする. CAM植物セイロンベンケイソウ,ハナガサベンケイソウ,及び通性CAM植物アイスプラントから単離したCAMの鍵酵素遺伝子,ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC),PEPCキナーゼ(PEPCK),NADPリンゴ酸酵素(NEDP-ME)の転写開始点5'上流に,時計遺伝子の発現及び乾燥・塩ストレス応答に関与するシス配列があることを確認した. アイスプラントのPPCK遺伝子(McPpck),及びC3植物のシロイヌナズナのPPCK遺伝子(Atppck1)の転写開始点5'上流を任意の長さに分断してレポーター遺伝子と連結し,プロトプラストにおける一過性発現解析を行い,これらの発現を制御するシスエレメントを含む領域を推定した.さらに,これらのDNA断片をそれぞれのプロトプラストに相互に入れ替えて導入する実験を行い,シロイヌナズナは,アイスプラントのMcPpckを夜に高く発現させるトランス因子をもたないことを明らかにした. 朝方及び夕方にそれぞれ発現量が最大となる時計遺伝子CIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED 1 (CCA1),及びTIMING OF CAB EXPRESSION (TOC1)のプロモーターをシロイヌナズナのゲノムから単離し,アイスプラントのMcPpc1及びMcPpckのcDNAを連結したベクターを構築してシロイヌナズナに導入した.いずれも遺伝子の導入が確認され,McPpc1及びMcPpckが夕方よりも明け方で高く発現していることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数種CAMから単離した転写開始点5'上流の塩基配列に,ストレスによるCAMの誘導に関与すると考えられる乾燥・塩ストレス応答性因子,及びCAMの概日リズム制御に関与すると考えられる時計遺伝子関連シスエレメント配列を確認した.また,C3植物とCAM植物とでシスエレメントを含むDNA断片を相互に入れ替えて発現解析を行う実験では,実験手法を精査することで再現性のあるデータの取得が可能になり,CAM植物にはあるがC3植物にはない転写因子の存在を明らかにすることができた.この実験を通して,シロイヌナズナは,Atppck1プロモーターにCAM型光合成遺伝子発現を制御するシスエレメントが存在するが,夜に高発現させるトランス因子がないことが示唆された. 転写因子の候補を絞る目的で,乾燥条件下で光合成様式をC3からCAMに変換するサンカクハゼラン(Talinum triangulare)でCAMの制御に関連すると推定された転写因子のホモログをアイスプラントから単離し発現解析を行った.その結果,発現に概日リズムを示す転写因子を数種選定することができた. 進化の過程で時計振動体の発現は変化していないという既報の知見を基に,時計振動体遺伝子CCA1及びTOC1等 のプロモーターとCAM遺伝子(McPpc1及びMcPpck)を連結して組み込んだベクターを構築しC3植物に導入した.いずれも導入遺伝子の存在を確認することができた.McPpck形質転換体T3及びT4世代,McPpc1 形質転換体T2及びT3世代まで世代を更新することができた.今後は導入遺伝子の後代への継代及び遺伝子の分離状態を確認し,遺伝的に安定した系統について,CAM関連酵素の活性,代謝変動の有無等を調べる. このように,今年度は当初予定として挙げた項目をほぼ達成することできたので,進捗状況はほぼ計画通りに進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
CAM関連遺伝子の発現を制御するシスエレメント配列及び転写因子を同定する.さらに,この知見を基に,C3植物にCAM制御因子を導入し,組み替え体にCAMの駆動させることを試みる.まず,1.一過性発現解析を用いてCAM関連遺伝子の発現を制御するシスエレメント配列を同定する.これまでの検討から,アイスプラントのPPCK遺伝子McPpckの5’上流領域を約500 bp上流まで分断してもプロモーター活性は低下しないことを明らかにした.この領域にシスエレメントが含まれると考えられるため,断片をさらに短くして同様の実験を行い,シスエレメントを同定する.ついで、2.CAMの概日リズムを制御する転写因子を同定する.McPPckとシロイヌナズナのPPCK遺伝子Atppck1におけるプロモーター活性の比較から,シロイヌナズナは,McPpckのシスエレメントに結合するトランス因子を持っているが,夜に高発現させるための因子を持たないことが示唆された.トランス因子を同定するために,アイスプラントと同様に光合成型をC3型からCAM型へ変換する植物(サンカクハゼラン)で報告された発現制御因子の相同遺伝子をアイスプラントから取得し, 発現量の日変化を調べる.また,選定された転写因子のMcPpckの発現に対する関与を明らかにするために, RNA干渉(RNAi)用のベクターを構築する.最後に,3.CAM型関連遺伝子をC3植物へ導入する.McPpck及びアイスプラントPEPC遺伝子McPpc1をC3植物であるシロイヌナズナに導入し,それぞれを所定の時間に発現する形質転換体を得る.また,将来的にイネに導入することを想定して,シロイヌナズナに導入したコンストラクトをもつイネ発現用ベクターを構築してイネに導入する.さらに,ゲノム編集技術を用いてC3植物のCAM型相同遺伝子を改変するために,編集候補部位を同定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
かねてよりコストパフォーマンスを念頭に置いた研究を心がけているが,今年度は特に費用を効率的に使用することができた.具体的には,実験方法を細かく見直し,無駄な反復や,すでにとってあるデータの過度な確認実験の回数を減らし,重複の回数を抑えた.プラスチック容器などを可能な範囲で繰り返し使うことにより使用量を減らすことで,経費の無駄を抑えた.実験者の経験値も上がり,実験の失敗も少なくなったことも,無駄な費用を抑えることができた要因と考えられる.さらに,実験者間の情報の共有をすすめた結果,トライ&エラーの回数も抑えられ,無駄な実験が減った. 実験の一部を外注することを想定していたが,実験の進捗にあわせて必要となった試薬があり,外注分に想定していた予算を使用せざるを得なくなった.残余は外注するには不足しており,時期的な問題もあって,次年度に持ち越すことにした.次年度は,今年度確立した節約法を駆使することで,実験を無駄なく効率的に行うことができると期待される.今後も工夫を重ね経費節減しながら実験の効率化をすすめたい.具体的には,試薬類,プラスチック器具類等の消耗品への使用を想定している.
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