研究実績の概要 |
本研究は,CAM(ベンケイソウ型有機酸代謝)の炭酸固定にみられる概日リズムを制御する分子機構を明らかにし,その知見を基にC3植物にCAMを駆動させ, ストレス耐性の強い作物を創出することを目標とする.ここでは,1.CAM植物がC3植物から進化した過程で獲得した遺伝子発現調節因子の解析,及び2.遺伝子導入及びゲノム編集を用いたC3植物へのCAM関連遺伝子の導入を目的とした. 数種CAMから転写開始点5'上流を単離し,CAMの制御に関与すると考えられるシスエレメント配列を確認した.C3植物とCAM植物のプロモーター活性の比較から,CAM植物に特有な夜間の遺伝子発現を誘導する転写因子の存在を明らかにした.CAM関連遺伝子の発現制御に関わる転写調節因子を同定するために,乾燥でCAMを誘導する種の遺伝子と相同性の高いアイスプラントの遺伝子(転写調節因子)を同定し,塩によって発現が誘導され,かつCAMの日変化と同調的な発現を示す転写調節因子を選定した.これらの結合部位が,アイスプラントのCAM鍵酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)及びPEPCキナーゼ(PPCK)遺伝子の転写開始点上流領域にあることを見出した. 2.のC3植物へのCAM型光合成遺伝子の導入は,ベクターを導入する従来法とゲノム編集を適用することとし,従来法では,時計振動体遺伝子にPEPC及びPPCKのcDNAを連結したベクターを構築してC3植物(シロイヌナズナ)に導入した.いずれも野生株より顕著に高く発現する形質転換体を得た.発現量は,PEPCはアイスプラントの約 30%程度,PPCKはアイスプラントの約2倍であった.シロイヌナズナとアイスプラントのCAM関連遺伝子の転写開始点上流領域の塩基配列及び発現様式の比較から,ゲノム編集によって改変する部位および編集で導入する配列を決定した.
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