湿害は,主に根の酸素不足に起因することから,根が十分に酸素を獲得できると,根の養水分吸収能が維持され,葉面成長や光合成が大きく低下せず,個体の成長速度を維持できると考えて,低酸素条件に対する植物体の酸素獲得機構を明らかにすることを目的とした. 雑穀4種を播種後2か月間の水耕栽培を実施し,低酸素処理も同様に実施した.個体成長速度に基づくストレス感受性指数から,テフとヒエはコルネとアワより低酸素耐性が強いことが明らかになり,純同化率がその規定要因であると考えられた.低酸素耐性の強い雑穀の根の成長,葉と茎の窒素含有率および個体のナトリウム含有率は低酸素処理によって変化しなかったが,弱い雑穀では,根の成長と葉と茎の窒素含有率は低下し,個体のナトリウム含有率は増加した.低酸素耐性の強い雑穀の不定根の中心柱の面積の割合は弱い雑穀より小さく,恒常性の破生通気組織の面積の割合は大きかった.呼吸活性の指標となるTTC還元活性は,低酸素耐性の強い品種では変化せず,弱い品種では21または31%に低下した.さらに,低酸素耐性の強い雑穀では,根端付近まで根毛の発生が観察された.以上のことから,雑穀4種の低酸素耐性の違いは,不定根において恒常性の破生通気組織が大きく,中心柱の面積が小さいために酸素消費が少ないことによって,根端まで酸素を効率よく供給するためであることを明らかにした.バイオ燃料作物による土地と水の使用の増加,気候変動,非生物的ストレスなどのさまざまな要因で食糧生産の増加という緊急の要求を達成することは容易ではないという指摘もある.このような状況を考えると,多様な遺伝資源の保存と,栽培面積の増加や環境への負荷をせずに作物の生産性を増加させることは喫緊の課題である.古くて新しい多様な遺伝資源である雑穀の生理生態学研究を通じて,上記の難題を解決する可能性が期待される.
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