研究課題/領域番号 |
18K05601
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
磯部 勝孝 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (60203072)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダイズ / 莢先熟 / サイトカイニン / 環境変化 / 播種期 |
研究実績の概要 |
我が国のダイズの作付面積が伸び悩んでいる理由のひとつに収量の不安定があるが,これには成熟期になっても茎葉の枯れ遅れとなる莢先熟の発生が関与している.そこで本研究ではダイズ作の収量安定化を実現するためにダイズ栽培で最も大きな問題となっている莢先熟の発生メカニズムを環境要因と発生に関わる遺伝子の発現及び発生に関与している植物ホルモン量を解析することで明らかにする. 上記のような研究目的の中で初年度である平成30年度は日射量や温度を変化させた後,子実肥大期において木部液を採取して,地上部に輸送されるサイトカイニン量を定量し,さらに合成遺伝子(CYP735A1やCYP735A2)の発現量を明らかにしてこれらと莢先熟の発生程度との関係も明らかにする目的で実験を行った.供試した品種は関東南部で6月に播種すると莢先熟を起こしやすいエンレイを用いた.この品種を2018年6月にワグネルポットに播種した. 第1実験では莢伸長期以降成熟期まで寒冷紗で遮光を行い、遮光による莢先熟の発生状況を比較した.その結果、遮光の程度が強くなっても子実肥大期に木部液を通じて地上部に輸送されるサイトカイニン量はかわらなかった.さらに、成熟期における莢先熟の発生状況も遮光程度が強くなってもかわらなかった. 第2実験では莢伸長期以降に人工気象室に入れ、通常の気温より気温を高くした高温区と低くした低温区並びに自然条件下のもとで育成した対照区の3区を設けた.その結果、対照に比べ高温区では子実肥大期に木部液を通して地上部に運ばれるサイトカイニン量が多く、逆に低温区はサイトカイニン量が少なかった.その結果、成熟期に各区の莢先熟の発生状況を比較したところ、対照区に比べ高温区で発生が著しく、低温区では発生が抑制された.これらのことから、莢先熟の発生に影響をもたらす環境要因は日射量よりも気温の方が大きいと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、同じ品種でも播種期の違いによってダイズの莢先熟の発生状況が異なることは明らかにされていたが、それがどのような環境要因の変化によるものかは不明であった.今年度の研究により、莢先熟の発生に大きく影響する環境要因が生育後期の光条件より気温であることが明らかになった.実際、莢伸長期以降に光条件を変化させても木部液で地上部に輸送されるサイトカイニン量は変化なかったが、気温を上げるとサイトカイニン量が増え、下げるとサイトカイニン量は減少した.生育後期に地上部にサイトカイニンが輸送されると地上部の老化が妨げられ莢先熟が助長されることから、生育後期に気温が高くなると地上部に輸送されるサイトカイニン量が増加し、莢先熟の発生が促進されることが明らかになり、これまでの研究はほぼ予定通りに進んでいる. ただし、当所の計画にあったサイトカイニン合成遺伝子の発現量が環境の変化によってかわるのかは明らかにすることができなかった.これは主に必要な遺伝情報を解析することはできたが、各区の遺伝子の発現量を明確に区別することができなかったことが原因にある.従って、次年度以降はこの点(サイトカイニン合成遺伝子の発現)についても明らかにして行く必要があると考える.さらに今回の試験では研究圃場でのポット試験であり、実際の農家圃場での結果ではない.このようなことから実際の生産現場でも今回得られたような現象が認められるのかは明らかになっていない.このようなことから、各地のダイズ圃場でもポット試験と同様な傾向があるのか確認する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年の研究では地上部へのサイトカイニンの輸送量と莢先熟の発生には生育後期の気温の違いが大きく影響することが明らかになったが、今後は気温のうち、夜温と昼温ではどちらがサイトカイニンの輸送量と莢先熟の発生に大きく影響するのか明らかにする.さらに、実際の農家さんの現地圃場で生育後期に木部液を採取して木部液のサイトカイニン量と莢先熟の発生状況の関係について明らかにして、同様のことが現地圃場でも認められるか明確にする. さらに、当初の計画では環境の変化は気温と日射量だけでなく、土壌水分や土壌肥沃度についてもサイトカイニン量や莢先熟の発生状況について明らかにして行く予定であった.つまり、同じ品種を同じ時期に播種しても圃場内で莢先熟の発生状況が異なることがある.これは気温や日射量以外の環境要因も莢先熟の発生に影響している可能性を示すものであると考える.従って、平成31年度以降は今回明らかにした気温や日射量以外の環境要因(例えば、土壌水分、土壌肥沃度、病原菌の有無)の影響についても明らかにする. また、地下部でサイトカイニンの合成を司っている遺伝子の発現が環境の変化によってかわってくるかも未だ明確にはなっていない.そこで、環境を変化させ莢先熟の発生とサイトカイニン輸送量が変化した時に地下部においてサイトカイニン合成遺伝子の発現量も同様に変化するか明らかにする必要がある.これが明らかになることによって、環境の変化、遺伝子の発現、莢先熟発生促進物質の増加、莢先熟の発生の関係が明確になる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に必要な消耗品を一部購入しなくても実験を遂行することができたので、差額を次年度に回した。この費用は主に消耗品費として使用する計画である。
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