研究課題/領域番号 |
18K05602
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
平野 達也 名城大学, 農学部, 教授 (30319313)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イネ / 葉鞘 / デンプン分解 / α-アミラーゼ / β-アミラーゼ |
研究実績の概要 |
イネ葉鞘における出穂後のデンプン分解制御機構を明らかにするため、葉鞘において発現量の多いβ-アミラーゼアイソジーンであるOsBAM2、OsBAM3、OsBAM5の各発現抑制系統、ならびにOsBAM2&3の二重発現抑制系統とOsBAM2&3&5の3重発現抑制系統を作出し、それらについては実際に各遺伝子の発現レベルが低下した系統が得られている。本年度はそれらに加えて、OsBAM2&5の二重発現抑制系統の作出を進めて、実際に両遺伝子の発現レベルが低下した数系統を得ることができた。そこで、その表現型解析にむけて閉鎖系温室で栽培を行い、解析用の試料採取を終えた。 超多収の飼料用インド型品種「タカナリ」は、出穂後の葉鞘におけるデンプン含量の低下が著しく、それにはα-アミラーゼアイソジーンのひとつであるRAmy2Aの発現量増加が関与していることが、我々の今までの研究から示唆されている。そこでタカナリを原品種としたRAmy2Aの発現抑制系統の作出を進め、昨年度までにT1世代の種子を得ていた。本年度はさらにその中からRAmy2Aの発現が有意に低下している系統を選抜し、そのT2世代の種子を得て、表現型解析を進めた。その結果、葉鞘および節間において出穂後にRAmy2Aの発現レベルが著しく低下した系統では、デンプン含量の低下が大きく遅れることが明らかになった。したがって、タカナリの稈や葉鞘における出穂後のデンプン分解にはRAmy2Aが重要な役割を担っていることがわかった。 タカナリと標準的な日本型品種の日本晴を用いて、出穂後の葉鞘におけるデンプン含量の変化とデンプン代謝関連酵素遺伝子の発現レベルを詳細に解析した。その結果、デンプン合成系の律速酵素であるAGPaseの大サブユニットをコードするAGPL1の発現レベルが、タカナリでは日本晴と比べて急速に低下することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
β-アミラーゼアイソジーンに関する解析では、平成30年度中に採取した試料を用いてデンプン含量の変化などの表現型を調査する予定であったが、予定より遅れて、試料の採取までで終わり、解析は次年度に持ち越すこととなった。一方、タカナリを原品種としたRAmy2A発現抑制系統の作出とその解析では、予定よりも早く平成30年度内に葉鞘と節間でのデンプン含量の変化を解析することができ、興味深い結果が得られている。また、出穂後の葉鞘におけるデンプン含量の変化と収量性が異なる品種を用いた比較解析では、タカナリと日本晴を用いてデンプン代謝関連酵素遺伝子の発現レベルの解析を詳細に実施することができた。以上のことから、研究はほぼ予定どおり順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に試料採取済みのOsBAM2&5発現抑制系統に関して、葉鞘のデンプン・糖含量の変化および収量構成要素の解析を進める。また、OsBAM2&3&5発現抑制系統とOsBAM2&5発現抑制系統を栽培し、穂孕期から登熟中期にかけて葉鞘と節間を採取して、デンプン・糖含量の変化の違いを比較し、収穫期に穂を採取して、収量構成要素を調査する。それらの解析から、出穂後の葉鞘と節間におけるデンプン分解に3つのβ-アミラーゼアイソジーンが果たす役割に関する知見を得る。 タカナリを原品種としたRAmy2A発現抑制系統に関しては、RAmy2Aの発現抑制による出穂後のデンプン分解の抑制が収量構成要素にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。そのため、野生型タカナリと複数のRAmy2A発現抑制系統を栽培し、収穫期に穂を採取して、収量構成要素の違いを詳細に解析する。また、出穂後の葉鞘におけるデンプン分解にRAmy2Aが果たす役割について日本晴とタカナリ間での差異を検証するため、日本晴を原品種としたRAmy2A発現抑制系統の作出を進める。さらに、日本晴とタカナリからRAmy2Aのコーディング領域ならびにプロモーター領域を単離し、その塩基配列を比較する。 出穂後の稈や葉鞘におけるデンプン含量の減少程度および収量特性が異なる品種間でのデンプン代謝の違いをさらに解明するため、日本晴とタカナリに加えて、一穂穎花数は多いが登熟歩合が低い傾向にある穂重型品種の「アケノホシ」を栽培し、出穂前から登熟期にかけての葉鞘におけるデンプン代謝関連酵素の発現レベルを調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画調書提出時では、初年度の物品費のうち設備備品費として120万円を計上していたが、採択時の交付額が申請額から削減されたために、予定していた備品である分光光度計を購入してしまうと研究補助員の雇用と消耗品の購入が困難になることが判明した。分光光度計は15年以上前に購入したものがまだ使用可能であったことから、今回の科研費では分光光度計の購入を取りやめて、交付額を研究補助員の雇用と実験に必要な消耗品、旅費に充てることとした。一方で、初年度に備品を購入する計画で調書を作成していたことから、交付が決定した研究経費のうち、初年度に全研究経費の半分に相当する170万円が配分され、2年目と3年目の配分額はそれぞれ90万円と80万円となり、初年度と比べて極端に少なくなった。そのため、2年目と3年目に研究補助員を雇用した上で研究に必要な消耗品費を捻出する必要が生じ、初年度の交付額を次年度に持ち越すように研究計画を工夫して実施してきた。その結果、次年度使用額として40万円以上を確保することができた。 初年度の研究の遂行状況については、すでに記載しているように概ね順調に進捗しており、問題はない。むしろ、2年目と3年目の研究に必要な経費を確保することができたために、2年目は当初の予定どおりで研究を遂行するつもりである。
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