研究課題/領域番号 |
18K05603
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
山根 浩二 近畿大学, 農学部, 准教授 (50580859)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イネ / 電子顕微鏡 / 3次元構造 / 葉緑体 / ミトコンドリア / ペルオキシソーム |
研究実績の概要 |
イネ葉肉細胞内の葉緑体、ミトコンドリア、ペルオキシソームにおける相互の膜接触を基にオルガネラ配置を観察した。観察した対照区のミトコンドリアにおいて、93%のミトコンドリアはペルオキシソームと膜接触をして集団を形成し、その集団は2つ以上の葉緑体の間に位置していた (Cluster)。しかし、6.6%のミトコンドリアはペルオキシソームと膜接触をしていなかった。ペルオキシソームと膜接触をしないミトコンドリアのうち、3.6%は2つの葉緑体の間に配置されていた (Bridge)。一方、3.0%のミトコンドリアは1つの葉緑体とだけ接触していた (Alone)。対照環境において、全てのペルオキシソームはミトコンドリアと膜接触をして集団を形成し、Clusterに配置されていた。 PEGストレス下において、ミトコンドリアやペルオキシソームの数は有意に増加していたが、配置は対照区と同様に分類できた。しかし、その割合は大きく異なり、ミトコンドリアにおいてClusterの位置が64%、Bridgeが19%、Aloneが17%であった。さらに、他のオルガネラと膜接触をしないミトコンドリア (Solo)も4.9%存在した。葉緑体とミトコンドリアの膜接触面積は増加したが、BridgeとAloneの位置に配置しているミトコンドリアが、その増加に大きく貢献していた。ペルオキシソームもPEGストレス下において配置変化が観察された。Clusterが91%になり、BridgeとAloneの位置にいるペルオキシソームが、それぞれ5.2と0.8%に増加していた。また、Soloに位置するペルオキシソームが3.4%に増加していた。葉緑体とペルオキシソームの膜接触面積が有意に増加していたが、Clusterに位置するペルオキシソームがその増加に大きく貢献していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究において、画像解析ソフトImageProは、オルガネラ同士の接触面の定量評価に有効であることが明らかとなり、手法が確立されたため本年度の研究も効率的に進めることができた。 ウルトラミクロトームによる連続切片ではz軸の間隔が100 nmとなり、オルガネラの定量評価に影響が出ることが予想された。そのため、FIB-SEMのデータ (Oi et al., 2002, Ann. Bot. in press)を用いて比較検討した。葉肉細胞と葉緑体の体積や表面積値を比較したところ、FIB-SEMとTEMで得られたデータ間に有意差は検出されなかった。そのため、汎用性の高いウルトラミクロトームとTEMで取得した画像を用いても、定量性への影響は小さいことが明らかとなり、FIB-SEMの使用を考えなくても良いことから、来年度も効率的に研究を進めることができると考えられる。 本研究手法を用いて対照区とPEGストレス区の比較を行ったところ、ストレス環境下ではオルガネラ同士の膜接触面積を増加させ、形態的にもオルガネラ間の協調関係が強化されていた。さらに、オルガネラ配置を系統的に4つに分類 (Cluster, Bridge, Alone, Solo)することができ、オルガネラ数が増えるストレス環境下においても葉肉細胞内のオルガネラ配置やその変化を効率的に理解することができた。塩ストレス下における配置変化や接触面積の定量は来年度以降に実施する予定であるが、耐塩性品種のPokkalliは、対照区と塩処理区の画像取得とトレースは終わっているため、接触面積の定量評価と配置変化をImageProを用いて解析をしていく。塩感受性の日本晴については、すでに切片の作製は終了しており、TEMでの観察とトレースを実施していく予定である。上記のように研究が進展しているため、研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
イネの耐塩性品種であるPokkalliと塩感受性品種の日本晴を用い、電顕固定後に連続切片を作製し、葉肉細胞内を観察する。Pokkalliの画像がすでに取得済みであり、葉緑体、ミトコンドリア、ペルオキシソームをトレースによって抽出した。そのため、本年度はその画像群を用いてオルガネラを三次元再構築し、それぞれのオルガネラについて配置変化や膜接触面積を定量評価する。塩処理による配置変化や膜接触面積の増減程度をPokkalli (耐塩性)と日本晴 (塩感受性)で比較し、オルガネラの膜接触面積の増減を品種間で差があるのか、さらに耐塩性と関係するのかを明らかにする。 光呼吸、シアン耐性呼吸、リンゴ酸バルブに着目し、それぞれの代謝物質の量を測定する。さらに、それぞれの代謝に関与する酵素活性変化を調べ、代謝物質量の変化と合わせて細胞の代謝活性を測定する。オルガネラの膜接触領域のデータと比較し、膜接触領域と代謝活性との関係性を明らかにする。 膜接触領域の増加による代謝促進機構を明らかにするために、代謝物質輸送体タンパク質のオルガネラ膜局在を調べる。リンゴ酸バルブに関与する葉緑体とミトコンドリア局在の輸送体 (ジカルボン酸輸送体、2-オキソグルタル酸/リンゴ酸輸送体)に着目し、免疫電顕法で葉緑体包膜上の分布を調べる。塩ストレス下で葉緑体とミトコンドリア、ペルオキシソーム膜が密着している部分では、これらの輸送体タンパク質が偏在し、代謝物質の輸送を促進させる機構が働いている可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の実験では、TEMで得られた画像のz軸に対する解像度の検討と画像解析ソフトによる解析手法の確立を中心に行った。さらに、塩とPEG処理をしたイネ葉の葉肉細胞の連続切片を作製して観察を行った。来年度も多くの切片を作製する必要があるが、これまで使用したダイヤモンドナイフの刃がすでに摩耗しているため、再研磨や新規購入の必要がある。さらに、来年度の実験計画として、代謝産物の測定と免疫電子顕微鏡観察を予定しているため、試薬等の購入に経費が必要となる。令和2年度に繰り越した研究費を利用して、ダイヤモンドナイフの研磨と新規購入、さらに生化学実験に関わる試薬等を購入する予定である。
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