研究課題/領域番号 |
18K05606
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
鈴木 達郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター, グループ長 (00469842)
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研究分担者 |
原 貴洋 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター, 上級研究員 (40355657)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ソバ / 穂発芽 / 野生種 / メカニズム / 遺伝子 |
研究実績の概要 |
本年度は、当初計画どおり「試験1:発芽阻害物質の関与の調査(1年目に実施)」、および「試験2:登熟~休眠打破過程の休眠/発芽関連遺伝子発現の調査(1~3年目に実施)」の一部を実施した。 「試験1」は、殻をむいた種子に過酸化水素処理を行ったところ休眠が打破された。このことから、殻をむいた種子において、過酸化水素処理で発芽阻害物質が効力を失った可能性が考えられる。特に種皮や胚が豊富に含有するポリフェノール類は酸化されやすい物質であることから、それらが発芽抑制に関与している可能性が高くなったと考えられる。次に、殻をむいた種子に対してジベレリンを外部から与え、休眠が打破されるか否かについて調査した。その結果、ジベレリン処理によっては休眠が打破はされなかった。このことから、野生種の休眠性はジベレリン合成の下流で支配される重要因子が存在する可能性が明らかとなった。また、野生種、普通ソバ、その他の栽培種を含む品種/遺伝資源における種子の休眠性も合わせて解析したところ、普通ソバでは完熟後の低温による休眠性休眠性の獲得は見られなかったが、その他では見出された。同時にその他栽培種の種子は多量のルチンと強力なフラボノイド配糖体加水分解酵素活性を有することも明らかとなったことから、休眠性獲得にはそれら物質や酵素タンパク質の発現が関係する可能性が考えられた。 「試験2」は、野生種(穂発芽耐性極強)および普通ソバ(品種名「キタワセソバ」;穂発芽耐性弱)を8月下旬に試験圃場に播種し、定法に従い栽培を行い、殻(果皮)を取り除いた登熟過程の種子よりtotalRNAを抽出し、そこから調製したmRNAを用いてcDNAを獲得した。cDNAは次世代シーケンサー用のライブラリー調製を経て正逆両方向の塩基配列を解読し(1フラグメントあたり150bp)、今後の解析に充分な量となる情報(各サンプル3Gb)を獲得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「試験1:発芽阻害物質の関与の調査(1年目に実施)」については、過酸化水素による休眠打破程度の調査、ジベレリンによる休眠打破程度の調査等、予定していた試験を全て行った。また、野生種を含む普通ソバ、その他栽培種の品種/遺伝資源における種子の休眠性解析によりソバ属植物が低温での休眠性獲得機構を有すること、及びその他栽培種の種子は多量のルチンと強力なフラボノイド配糖体加水分解酵素活性を有することも明らかにし、メカニズム推定に重要な情報を追加で得た。これらの知見については、現在論文を執筆中である。 「試験2:登熟~休眠打破過程の休眠/発芽関連遺伝子発現の調査(1~3年目に実施)」については、予定通り野生種(穂発芽耐性極強)および普通ソバについて試験圃場での栽培~登熟過程種子のcDNAを獲得し、発現解析を行うための下準備を実施した。 以上より、現在までの進捗状況は想定以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、「試験2:登熟~休眠打破過程の休眠/発芽関連遺伝子発現の調査(1~3年目に実施)」および、「試験3:難穂発芽性の遺伝様式の調査(2、3年目に実施)」を推進する。 「試験2」は、まずモデル植物等で報告されている休眠/発芽にかかわる遺伝子のソバにおけるホモローグの探索を行う。獲得したcDNAに対し2018年度に獲得したソバの登熟過程のmRNA由来のDNAフラグメント情報をマッピングし、ソバでのホモローグ配列を獲得する。同時に、マッピングされたフラグメント数(リードカウント)を解析する。リードカウントは登熟過程種子でのmRNA発現量を反映することから、獲得したデータを野生種と普通ソバの間で比較することにより難穂発芽性に関するキー遺伝子を絞り込む。材料としては、普通ソバ(穂発芽耐性弱(キタワセソバ))および当該野生種を用いる。なお発芽過程についても同様の解析を合わせて行うことで、DELLA様タンパク質(他作物で登熟時期に合成されジベレリン誘導性発芽促進遺伝子の働きを抑制するタンパク質)や、モデル植物や他作物で報告されている種子成熟制御因子(LEC、ABI、FUS等)の関与も把握する。 「試験3」は、普通ソバ(穂発芽耐性弱(キタワセソバ))と当該野生種を交配し、後代(F2)にて殻あり/なしそれぞれについて穂発芽が極めて起こりやすい32℃の条件にて穂発芽検定を行う。交配は普通ソバの長柱花個体を種子親、野生種を花粉親として行う。交配の成否は、野生種が持つ等長柱花性 (遺伝子型:ShSh)は普通ソバの持つ長柱花性(ss)に対して完全優性であることを利用して判断する(交配が成功すればF1の表現型は等長柱花となる)。獲得したF2について、個体ごとの発芽率の分離比を考察することで関与する遺伝子の数を推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品類が当初計画より安価に購入できたため。使用計画としては、2018年度に想定以上に研究が進捗したことから、追加で執筆する論文作成のための英文校正および論文掲載料を想定している。
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