研究実績の概要 |
昨年度までに、野生種が有する穂発芽耐性は遺伝解析により、「殻なし」では劣性の1遺伝子により、また「殻あり」では優性の2遺伝子により支配されていること等を明らかにした。また、また植物の穂発芽性に関する新たな知見として、「不溶性プロアントシアニジンの蓄積」および「ルチノシダーゼによるルチン分解」が難穂発芽性に関係する可能性、およびソバが低温で2次休眠性を獲得することを明らかにした。 本年度は、「試験2:登熟~休眠打破過程の休眠/発芽関連遺伝子発現の調査」について、穂発芽しやすい「普通ソバ」(Fagopyrum Esvulentum)と、難穂発芽性の「野生種」(F. homotropicum)について、成熟過程種子のtotal RNAを抽出し、次世代DNAシーケンス技術により150bpのショートリードを獲得し、参照配列へのマッピングにより発現量を比較した。対照遺伝子としては、他の作物で穂発芽性や休眠性に関係するとされる以下の遺伝子のソバにおけるオーソログ配列を使用した: Vp1, NCED1, DOG1, DELLA, MKK3, CYP707A, SnRK2, SCL3, PP2C, AREB1。その結果、アブシジン酸(ABA)の合成促進と分解抑制に関わる方向の遺伝子の発現が増加していた。このことから、ソバ野生種においては、ABA合成量を増加させることで休眠性を強化する方向の働きと、ABA分解を抑制することで休眠打破を抑制する方向の2つの側面から休眠性を強化するメカニズムがあると考えられた。 今後は、上記知見を受け、野生種の難穂発芽性に関係するDNAマーカーの開発を行うとともに、交配後代の収量性や成熟期等を考慮した選抜を行うことで、安定多収のソバ品種の育成につなげるための実用化に応用することができると考えられる。
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