最終年度である令和3年度の本研究の計画は、イネ科牧草におけるロリオースの分布状況および植物体内での動態を明らかにすることである。ただし、ロリオースの分布状況については前年度までに前倒しで完了しており、イネ科の中でもドクムギ属(Lolium)およびウシノケグサ属(Festuca)にのみ存在することを確認してきた。このため、令和3年度は植物体内での動態に焦点を当て、イタリアンライグラスの種子形成期におけるロリオースの蓄積状況および収穫後のサイレージ調製工程におけるロリオースの消長について検討を行った。 ロリオースの蓄積に関しては、昨年度得られた予備的な結果に基づき、開花後の日数を指標として複数個体の種子中ロリオース含有量を分析した。その結果、調査したすべての個体において、昨年度同様、登熟後期にロリオースが蓄積することを確認し、ロリオース蓄積メカニズムの全容解明につながる重要な知見を得ることができた。 また、サイレージ調製工程におけるロリオースの消長に関しては、収穫時期を後ろ倒しにしてロリオースを蓄積させたイタリアンライグラスを用いて真空パウチを作製し、簡易サイレージの調製を行った。調製したサイレージ中のロリオースを分析したところ、ロリオースはほとんど検出されず、発酵過程において分解されていることが示唆された。本結果については、ロリオースの代謝機構を解明するうえで非常に有用な情報であり、今後の研究拡大が期待される。 以上のように、本研究では、ロリオースの限定的な分布状況を調査するとともに、これまで未解明であったロリオースの蓄積時期について明らかにすることができた。また、開発した簡便な方法を用いてグラム単位のロリオース標品を調製してきたことを含め、これまで未解明であったロリオースの生合成および代謝に関して、包括的な研究成果をあげることができた。
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