熱帯起源の植物であるイネは、低温順化機構を持たないと考えられてきたが、イネが低温順化により高レベルの低温耐性(順化型低温耐性)を獲得することを確認し、その低温耐性に関与する低温順化応答の候補を複数明らかにしている。本研究は、これまで詳細に解析されていなかった熱帯起源のイネの順化型低温耐性に焦点を当て、ジャポニカイネとインディカイネの両品種間に存在する順化型低温耐性の違いをもたらす分子機構を明らかにするとともに、それらの順化型低温耐性の差異に関与する遺伝子領域を明らかにすることを目的とした。 低温順化により誘導される応答を再現した3種の活性酸素消去系酵素遺伝子高発現組換えイネ、熱ショック蛋白質遺伝子高発現組換えイネ、ラフィノース高蓄積組換えイネは、原品種「おぼろづき」に対し、わずかではあるが高い幼苗期の低温耐性を示した。このことから、低温順化により誘導される低温耐性の主要因は他にある可能性が考えられた。 コシヒカリ/Kasalathの染色体置換系統群及び戻し交雑自殖系統群を用いて、低温順化における品種間差に関与する遺伝子領域を探索した。その結果、順化型低温耐性の品種間差における3つの寄与率の高いQTLを見出し、詳細な解析をするための系統を作製した。 順化型低温耐性能の優れる「コシヒカリ」と劣る「Kasalath」について、12℃5日の低温順化処理後の4℃で低温ストレス処理を行った幼苗を経時的にサンプリングし、メタボローム解析及びトランスクリプトーム解析に供した。
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