研究課題/領域番号 |
18K05610
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西澤 隆 山形大学, 農学部, 教授 (10208176)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トマト / つやなし果 / マイクロクラッキング / ホウ素 / 摘葉 / クチクラ |
研究実績の概要 |
トマトの「つやなし果」(マイクロクラッキング)は,果皮のクチクラ表面に微細な傷ができる生理障害で,できた傷によってクチクラの機能が部分的に阻害されるため,果皮表面からの蒸散量が増加し,合わせて病原菌が侵入しやすくなるなど,果実の日持ち性を大きく低下させる.平成30年度の試験結果で,クチクラの量と「つやなし果」の発生との間には正の相関が認められなかった一方,培養液中のホウ素濃度を変えることにより「つやなし果」の発症程度が変わることを明らかにした.そこで令和1年度では,トマト‘麗容’を供試し,ホウ素過剰下で養液栽培したトマト果実の「つやなし果」の発生状況を調べたところ,ホウ素施用時期に拘わらず「つやなし果」が発生することはなかった.一方ホウ素欠乏条件下で養液栽培を行った場合,開花期ないし開花前期からホウ素を欠乏させた場合には,「つやなし果」が発生したが,栽培初期からのホウ素欠乏はトマトの受精と種子形成を大きく阻害し,奇形果や落果も多く発生した.そこで受精と「つやなし果」との関係を調べるため,ミニトマト‘千果’を供試し,ホルモンバランスを変える摘葉処理を行った.その結果,強度の摘葉処理を行うことにより単為結果を阻害し,種子形成を促した果実では「つやなし果」の発生が大きく抑制された.こうした結果は,受精の有無が「つやなし果」の発生に影響する可能性を示唆している.摘葉処理を行うと,果実の肥大生長も阻害されるが,夏季の高温期に着果数を調整することによって果実の肥大生長を抑制した場合には「つやなし果」が発生したことから,ホウ素欠乏による果実肥大の抑制と「つやなし果」の発生とは直接関係ないものと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度に行った試験では,トマトの「つやなし果」と果実成熟期におけるクチクラの成分量との間に正の相関が認められないことを明らかにした.引き続き行った令和元年度の試験では,「つやなし果」がホウ素欠乏条件下で発生しやすいものの,ホウ素欠乏条件下における果実の肥大生長抑制と「つやなし果」の発生との間に正の相関がないことを明らかにした.特に,摘葉処理を行った場合,果実の肥大生長は大きく抑制されるが,同時に「つやなし果」の発生も抑制されることが明らかになったことは,本研究を進展させる上で大きな新知見になった.現在はこれらの結果を踏まえて学会発表並びに投稿論文を執筆していることから,概ね研究は順調に進捗しているものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度までの試験で,ホウ素欠乏条件下でトマトの「つやなし果」が発生し易くなることを明らかにした.一方,1)「つやなし果」の初期発生は果実の肥大初期~中期にかけてと予想されること,2)この時期のクチクラの成分量と「つやなし果」の発生との関係は必ずしも明確では無いこと,3)クチクラの成分量は,果実全体や表面積当りで見るのではなく,果実の細胞1個当りのクチクラ量で見るべきであること,が示唆された.特に果実の肥大初期に摘葉処理した場合には,細胞の肥大生長が抑制されるため,果実全体で見ると正常に肥大した果実と比べてクチクラ量は少なくなるが,1細胞の面積当りで見ると逆に多くなる傾向がある.クチクラ生成にはホルモンバランスが深く関わっていると予想され,摘葉によって単為結果が抑制され果実の種子形成が促された場合には,果実表皮細胞の肥大は抑制されても,表皮によるクチクラ合成能は大きく抑制されない可能性がある.従って令和2年度の試験では,「つやなし果」が発生し始めると考えられる果実肥大初期~中期の表皮細胞の肥大生長とクチクラ生成量との関係を明らかにすることで,トマトの「つやなし果」の発症要因を明らかにする予定である.
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