トマトの「つやなし果」(マイクロクラッキング)は,果皮のクチクラ表面に微細な傷ができる生理障害で,できた傷によってクチクラの機能が部分的に阻害されるため,果皮表面からの蒸散量が増加し,合わせて病原菌が侵入しやすくなるなど,果実の日持ち性を大きく低下させる.本試験課題の研究で,クチクラの量と「つやなし果」の発生との間には必ずしも正の相関が認められなかった一方,培養液中のホウ素濃度を変えることにより「つやなし果」の発症程度が変わることを明らかにした.そこで,トマト‘麗容’ホウ素過剰下で養液栽培したトマト果実の「つやなし果」の発生状況を調べたところ,ホウ素 施用時期に拘わらず「つやなし果」が発生することはなかった.一方ホウ素欠乏条件下で養液栽培を行った場合,開花期ないし開花前期からホウ素を欠乏させた場合には,「つやなし果」が発生したが,栽培初期からのホウ素欠乏はトマトの受精と種子形成を大きく阻害し,奇形果や落果も多く発生した.そこで受精と「つやなし果」との関係を調べるため,ミニトマト‘千果’を供試し,ホルモンバランスを変える摘葉処理を行った.その結果,強度の摘葉処理を行うことにより単為結果を阻害し,種子形成を促した果実では「つやなし果」の発生が大きく抑制された.こうした結果は,受精の有無が「つやなし果」の発生に影響する可能性を示唆している.強度の摘葉処理による種子形成は,オーキシンの合成を促進する.そこで合成オーキシンである”トマトトーン”処理を行うと,高濃度で処理するほど「つやなし果」の発生が抑制された.また,マルハナバチを用いて受精させた場合にも「つやなし果」の発生が抑制された.表皮のクチクラ成分を調べると,摘葉やホルモン処理によりクチクラ合成が阻害され,クチクラの剛性が弱まることが,「つやなし果」を抑制する要因であると考えられた.
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