辛味はトウガラシ果実の重要形質である。辛味の強弱に関する嗜好性は、国・地域・用途で異なっており、辛味成分カプサイシノイド含量を制御できる育種技術 が求められている。これまでに、生合成経路の一遺伝子であるputative aminotransferase(pAMT)遺伝子の機能欠損がカプサイシノイド含量を激減させることを 示した。さらに近年、1.カリブ 原産の栽培種Capsicum chinenseには、トランスポゾンの挿入と転移を介した様々なpAMT変異が存在すること、 2.トランスポゾ ンの挿入位置が辛味の強弱と相関していることを明らかにしつつある。これら種々のpAMT変異を導入し、その遺伝子マーカーを利用することで辛味程度を簡便に 調整できる育種技術を確立できる可能性がある。本研究課題では、pAMT遺伝子の構造変異がトウガラシの辛味低下を引き起こすメカニズムを解明し、それに基づ いてカプサイシノイド含量の新規調整法を確立する。 本年度は、辛味系統 Rocotillo(RO)から見出された新規の変異型pAMTアレルについて解析を行った。 結果、機能型pAMTをもつ個体群と比較して、RO型ホモ個 体群では、pAMT酵素活性が低下し、辛味成分含量が50%程度に減少することを明らかにした。RO型pAMTアレルは、第3イントロンにトランスポゾンTccの挿入をも つ。このトランスポゾン挿入位置は,既報の機能欠損型アレルpamt5と同一の位置であった.今回のRO型pAMTアレルの同定により「1 まず機能型pAMTのイントロ ンへのトランスポゾン挿入により活性が低下する,2 その後,さらにエキソンに挿入が生じることで,完全にpAMT活性を失う」という段階的な活性低下を経て 機能欠損アレルpamt5が出現したことが考えられた。
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