研究課題/領域番号 |
18K05620
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
藤川 愉吉 広島大学, 生物圏科学研究科, 講師 (10506687)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アスコルビン酸 / 生合成酵素 / アセロラ / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
アスコルビン酸(ビタミンC,AsA)は動植物の生存に必要不可欠な物質である。本研究では代謝工学によるAsA生合成酵素の発現やAsA生合成経路を最適化し、植物のAsA量の大幅な強化を目指した研究を展開している。最初に低AsA含有植物のAsA量の強化を行うため、AsA量を劇的に向上させるAsA生合成酵素の過剰発現の組み合わせを決定した。次いでアセロラのAsA生合成機構の基礎的知見を得るために、アセロラGDP-L-galactosephosphorylase(GGP)遺伝子プロモーターの活性評価とアセロラGalLDHのミトコンドリア局在シグナルの同定を試みた。 アセロラではAsA生合成経路の上流3つ(GDP-D-mannose pyrophosphorylase;GMP、GDP-D-mannose-3’,5’-epimerase;GMEおよびGGP)の酵素遺伝子が高く発現していることが明らかになっている。そこで、それら上流3つの酵素に着目して過剰発現によるAsA量を評価した。低AsA含有植物としてトマトを用いて評価した結果、GGPの過剰発現が特に重要であるが、残り2つ酵素遺伝子の共発現もAsA量の強化に必要であることがわかった。一方、下流3つの酵素遺伝子(GDP-L-galactose phosphorylase;GPP、L-galactose dehydrogenase;GDHおよびL-galactono-1,4-lactone dehydrogenase;GalLDH)の共発現ではAsA量の増加は認められなかった。次にアセロラGPP遺伝子プロモーターの活性評価を試みた。シロイヌナズナのプロトプラストを用いてアセロラとシロイヌナズナのGGPプロモーターを比較したところ、アセロラGGPプロモーターはシロイヌナズナと比べて高いことが明らかになった。 以上の結果から、植物のAsA量の強化に生合成経路の上流3つの酵素遺伝子の過剰発現が必要であることと、アセロラではAsA生合成酵素遺伝子の上流は高いプロモーター活性を有することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物のAsA生合成経路は少なくとも6つの酵素が関わっている。そのため、植物のAsA量の強化には、どの生合成酵素に着目する必要があるかを明らかにするために、これまでに我々が開発したシロイヌナズナのプロトプラストを用いた96ウェルフォーマットの一過的過剰発現系を改良して、一過的にAsA生合成酵素を過剰発現させたプロトプラストのAsA量を評価できるようにした。当初は低AsA含有植物であるシロイヌナズナを対象としていたが、より実用を目指した応用研究を展開するためにトマト(マイクロトム)に変更した。トマトのプロトプラストを用いたAsA生合成酵素の過剰発現によるAsA量の評価に関する結果をまとめ、学会発表と共にBioscience, Biotechnology, and Biochemistry誌に発表することができた。さらにアセロラの生合成経路の基礎的知見を得るためにアセロラGGP遺伝子プロモーターを評価し、シロイヌナズナと比べて高いプロモーター活性を有することが明らかになった。さらにアセロラGalLDHの一次構造内にあるミトコンドリア局在シグナルを特定するためにGFP融合GalLDH発現コンストラクトを作製することもできた。そのため、本研究は計画通りに進展したものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
アセロラAsA生合成酵素の過剰発現については、AsA生合成経路の上流3つの酵素が重要であることがわかったため、今後、これら3つのAsA生合成酵素を過剰発現させるための植物発現ベクターを作製し、組換え植物の作出を試みることを予定している。またAsA生合成経路の強化にはアセロラの基礎的知見は重要であるため、アセロラGGP遺伝子のプロモーター解析を行い、高発現に関わるシス因子の同定を試みる。今回はシロイヌナズナのプロトプラストを用いてアセロラGGP遺伝子のプロモーター活性を評価したが、種間におけるプロモーター活性を評価するために、アセロラを用いたプロモーター解析系を構築し、GGP遺伝子のプロモーター活性の評価することも検討する。そしてアセロラGalLDHの一次構造内にあるミトコンドリア局在シグナルについても解析する。
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