研究課題/領域番号 |
18K05622
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
羽生 剛 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (60335304)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 浮き皮 / ウンシュウミカン |
研究実績の概要 |
‘南柑20号’は優れた果実品質をもつ愛媛県の中生ウンシュウミカンの代表品種であるが,成熟期に浮き皮が発生することが問題になっている.さらに,浮き皮は秋季の高温多湿によって発生が助長されるため,近年の地球温暖化により発生が増加してきており,早急な対策が求められている.現在,浮き皮軽減の技術は開発されているが,完全には抑制できないため,浮き皮の発生しにくい新品種の育成が求められている.ウンシュウミカンには‘石地’のように浮き皮がほとんど発生しない品種もあるが,これまで浮き皮の発生程度の違いに関する遺伝的要因については明らかにされていない。そこで本研究では、浮き皮が発生しやすい‘南柑20号’と‘石地’を用いて浮き皮の発生程度の違いに関する遺伝的要因について,特に果皮と果肉の遺伝的差異(キメラ性)に着目して調査を行っている.本年度は,両品種の果皮と果肉における遺伝的差異について調査するため,ゲノム解析と網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq解析)を試みた.ゲノム解析は果皮や果肉からのDNA抽出が困難であったため,未だ解析ができていないが,RNA-seq解析の結果では果皮において顕著な品種間差がみられた.9月に採取した果皮を用いたRNA-seq解析において浮き皮の発生に関与している可能性のある‘南柑20号’で有意に高発現していた発現変動遺伝子についてEnrichment解析を行った結果,ジャスモン酸のシグナル伝達系遺伝子が‘南柑20号’の果皮で有意に多く発現していることが示唆され,さらに,リアルタイムPCRによりジャスモン酸のシグナル伝達系遺伝子であるJAZ遺伝子の発現量を調査した結果,JAZ1およびJAZ10が9月と11月の‘南柑20号’の果皮において品種・器官特異的に発現が高く,これらの遺伝子発現の差異が浮き皮の発生程度の差異に関係している可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の通り,本研究では浮き皮の発生程度の品種間差異をもたらす原因遺伝子の同定のため,ゲノム解析と発現解析の両面から研究を進めている.ゲノム解析では果皮と果肉のキメラ性について調査を行う予定であるが,市販のDNA抽出用試薬や抽出キットは葉を前提にプロトコールが作られているため,夾雑物が多いカンキツの果皮や果肉ではDNAの困難であったため,現在の所まだ解析が行えておらず,その点が少し遅れている点である.DNA抽出については今後も引き続き抽出方法を検討して行く予定である.一方で,発現解析からはこれまでに報告のないジャスモン酸のシグナル伝達系の遺伝子,特にJAZ遺伝子が浮き皮が発生しやすい品種の果皮で特異的に高いことを明らかにした.プロヒドロジャスモン処理が浮き皮軽減に効果があることから,本研究で得られた知見は浮き皮発生の品種間差異に関係していると考えられ,この点では一定の成果が得られている.さらに,RNA-seq解析の結果からはジャスモン酸のシグナル伝達系だけではなく,ジャスモン酸生合成系遺伝子の発現にも差が見られるため,引き続きジャスモン酸に関して調査を進めることで浮き皮発生についての有用な知見が得られると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り,果皮と果肉のキメラ性に関する調査(ゲノム解析)を引き続き検討するとともに本年度の研究により明らかになったジャスモン酸のシグナル伝達系と浮き皮との関連性についてさらに調査を進める予定である.まず,ジャスモン酸のシグナル伝達系については,11月の果皮のサンプルを用いた網羅的遺伝子発現解析を行うとともにJAZ以外のジャスモン酸シグナル伝達系遺伝子やジャスモン酸生合成系遺伝子の発現の品種間差を調査し,浮き皮とジャスモン酸との関係についてさらに調査を行う.また,浮き皮軽減に効果があるプロヒドロジャスモンの処理による遺伝子発現の変化について調査する予定である.ゲノム解析についてはDNA抽出方法を検討し,その結果抽出できたらゲノム解析を行い,発現解析と合わせて浮き皮の品種間差の原因遺伝子について 解析を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム解析を行う予定であったが,DNAの抽出が困難であったため,次年度に持ち越したため.
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