球根休眠性に関したゲノム研究は大きく後れており,球根休眠性の遺伝機構は依然として未解明のままである.そこで,本研究は球根休眠性において対照的な分化を遂げているテッポウユリとタカサゴユリを用いて球根休眠性の後代への遺伝様式を調査し,球根休眠性の進化モデルを提唱することを目的とし,以下の結果を得た. 1)国内に自生しているテッポウユリ集団において,球根休眠性と球根休眠性と関連性のある遅咲き性の形質において地理的形質変異を調べた結果,ほとんどのテッポウユリ集団で球根休眠性を示した.また,北部のテッポウユリ集団は遅咲き性を示した. 2)非球根休眠性・早咲き性を示すタカサゴユリと球根休眠性・遅咲き性を示すテッポウユリの交配により得られたF1個体について葉形指数(葉長/葉幅)を調べた結果,F1個体は両親の中間型を示したことからテッポウユリとタカサゴユリとの雑種であることが確認された.また,F1個体の球根は非休眠性・早咲き性を示したことから,非球根休眠性・早咲き性が優性形質である可能性が高いと考えられた.続いて,F1個体から得られたF2分離集団で球根休眠性および遅咲き性を評価した.その結果,球根休眠性から非球根休眠性への進化は少数の主要な遺伝子変化によってもたらされ,球根休眠性には飛躍的進化が関わっていることを明らかにした.また,早咲き性の性質は球根休眠性に関連した遺伝的な変化だけではなく,他の形質における遺伝的変化によってもたらされたことがわかった.
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