研究課題/領域番号 |
18K05626
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
中村 郁子 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教 (40585858)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 2倍体イチゴ / 単為結果 / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
これまでイチゴの研究に使用されることの多いオーキシン、1-ナフチル酢酸(NAA)では誘導される単為結果果実はNAAのみの場合には半数以上が成熟しない。NAAにより誘導された果実の発達を促進するジベレリン(GA)と同時に投与した場合にも受粉果実と比べて発達がやや遅れ、果実の大きさも劣っていた。そこで単為結果に関してより効果の高いオーキシンについて2種類の天然オーキシン及び9種類の合成オーキシンを対象に検討を行った。その結果、合成オーキシンの一つであるピクロラムを用いるとピクロラム単独でもほぼ100%成熟に至り、GAと同時に処理した場合にはNAAとの共処理のよりも果実サイズが大きく、果実の長さにおいては受粉果実との有意な差はなかった。受粉果実とNAAとGAによる単為結果果実の違いを検討するために定量的RT-PCRを用いて果実の発達に関与すると考えられる代表的な植物ホルモンの関連遺伝子について発現解析を行った。投与しているオーキシンやGAの生合成遺伝子は単為結果果実ではほとんど発現していないことが分かった。またクライマクテリック果実では成熟促進で知られる植物ホルモンであるエチレンは受粉果実で見られる最終的な生合成遺伝子の発現が単為結果果実では見られなかった。アントシアニンの合成に関与することで知られるジャスモン酸はシグナル伝達関連の遺伝子発現が単為結果果実では弱かった。そこでこれらの植物ホルモンを成熟期に投与したところ、エチレンは成熟を早めるが、投与と同時に果実の肥大が停止することがわかった。ジャスモン酸は投与することにより最終的な果実の幅が受粉果実と同程度まで発達することがわかった。トマトで単為結果に関わる遺伝子の相同遺伝子の一過的遺伝子発現抑制については現在試験中である。さらにNAA単独で100%成熟直前で発達が停止し、薬剤を投与することで成熟を開始するような条件を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年度計画通りNAAより効果的なオーキシンの検討について行い、ピクロラムが効果的であると決定した。オーキシンとGAによる単為結果果実と組み合わせることでより受粉果実に近づけるような薬剤としてジャスモン酸を候補として選抜した。トマトにおける単為結果遺伝子の相同遺伝子の解析については導入遺伝子の作製は終了し、現在予定通り相同遺伝子の作用を検討中である。当初の予定以上の進展としてはオーキシンやジベレリンにより受粉せずに着果状態を作り出したのち、成熟を開始するには別の刺激が必要であることを発見した。さらに成熟制御の詳細を研究するにあたって必要な成熟の開始を薬剤処理のよって制御する方法を見出した。したがって計画は当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果より単為結果果実と受粉果実の形態に差が見られるのは受粉あるいは単為結果処理後2週間程度の大きい緑色の果実期からであることがわかった。実際NAA処理により誘導した単為結果果実では成熟に至らない場合大きい緑色の果実状態で発達が停止する。昨年度中に大きい緑色の果実で発達を停止した果実に薬剤を処理することで成熟を開始するような条件を見出したことから、今年度はその特徴に着目して成熟の鍵となるイベントを明らかにする。当初の計画からRNA-seqを行う時期を変更し、発達を止めた果実と発達を再開した果実における遺伝子発現を比較し、成熟開始の鍵となる遺伝子群の探索を行う。トマトにおける単為結果誘導遺伝子の相同遺伝子については引き続き解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は成熟開始の鍵遺伝子の探索においてRNA-seqにより遺伝子の網羅的解析を行うために多額の消耗品費が生じる。その後、その結果を元に詳細な解析を行うために相当額の分子生物学関連費用が必要である。イチゴは害虫の被害を受けやすく、きめ細かな手入れを必要とすることから栽培管理のための人件費が発生する。
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