昨年度までに単為結果に最も効果的なオーキシンとして合成オーキシンの一つであるピクロラム(Pic)を選抜した。別の合成オーキシンであるナフチル酢酸(NAA)処理により単為結果を誘導し、成熟直前で発達を停止した果実とほぼ全ての果実が成熟する。昨年度の結果から、成熟に関わるとされる植物ホルモンの一つであるジャスモン酸(JA)がNAA誘導果実よりもPic誘導実で多いことがわかった。そこで、成熟に関わるとされる植物ホルモンである、エチレン、アブシジン酸(ABA)およびJAをNAAにより誘導した果実に誘導後14日目あるいは21日目に投与し、観察した。その結果、エチレン処理によってはNAA単独処理の場合よりも成熟率が低下し、ABA処理によっては14日目に処理した場合に成熟率が低下した。一方、JAの一種であるメチルJAをNAAにより誘導した果実に投与すると14日目では成熟率が低下したが、21日目の場合、成熟率は増加した。このことからABAやJAは不適切な時期の増加はむしろ成熟阻害に働き、高濃度のエチレン処理は成熟阻害に作用すると考えられた。一方で適切な時期のJA処理は成熟率の増加に寄与していると考えられる。成熟過程におけるエチレン、ABAおよびジャスモン酸の生合成遺伝子の発現を解析した結果、Picにより誘導された果実では成熟期前後のJA生合成遺伝子の発現が高く、ABA生合成遺伝子は成熟後期に増加が見られた。したがってPic誘導果実ではJAが成熟期前後から、ABAが成熟後期に自発的に成熟期に誘導され、成熟率の向上に寄与していると考えられる。一方でエチレンの生合成遺伝子は受粉果実では受粉後低下が見られるのに対し、NAAにより誘導された果実では低下が見られなかった。このエチレン生合成遺伝子の発現により、NAA誘導果実が成熟した際の成熟時期の遅延や成熟開始直前の発達停止の可能性が考えられる。
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