研究課題/領域番号 |
18K05628
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
上町 達也 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (40243076)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 弁化 / アジサイ / がく片 / 花弁 / トランスクリプトーム / 装飾花 / 八重咲き / 手まり咲き |
研究実績の概要 |
これまでに,アジサイ額咲き品種‘Blue Sky’とその枝変わりである手まり咲き変異挿し木繁殖系統‘BM-1’の花芽のRNA-Seq解析により得られたロングリードデータなどを用いて,29,270種類のEST参照配列を構築している(園芸研14別2:512).このEST配列に含まれる7種類のSEP様配列についてプライマーを設計し,アジサイの一重咲き品種と八重咲き品種の装飾花および非装飾花について,リアルタイムRT-PCR法による発現解析を行った.八重咲き品種における装飾花と非装飾花の比較では,5種類のSEP様配列において装飾花で有意に発現量が少なく,1種類のSEP様配列において装飾花で発現量が有意に多かった.これらのSEP様配列は,花弁状がく片形成に関与している可能性が考えられた.一方,八重咲き品種と一重咲き品種の装飾花の比較では,2種類のSEP様配列において,八重咲き品種で発現量が有意に少なかった.また3種類のSEP様配列において,八重咲き品種‘隅田の花火’と‘城ヶ崎’との間で発現パターンに違いが認められた.‘隅田の花火’と‘城ヶ崎’では八重咲き変異の生じた遺伝子座が異なることがこれまでの研究で示唆されていることから,この変異遺伝子座の違いが3種類のSEP様配列における両品種間での発現パターンの違いに関与している可能性が考えられた. 本研究では,アジサイの花芽,小花,葉などを用いてIso-seq(PacBio Sequel)により,新たにリファレンス配列を構築した.また八重咲きと一重咲きの装飾花と非装飾花の合計6サンプルを用いて,ショートリードのRNA-seq(Illumina)を行い,リファレンスへのマッピングによる比較解析を行った.これらの解析データは,年度末に届いたため,次年度以降,解析結果をもとに実験を行っていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのRNA-Seq解析をもとに特定した7種類のSEP様配列EST配列について発現解析を行うことにより, 5種類のSEP様配列においてアジサイの異形型の花弁状がく片の形成に関与している可能性があることを明らかにすることができた. Iso-seq(PacBio Sequel)によるリファレンス配列の再構築を行うことができた.また八重咲きと一重咲きの装飾花と非装飾花の合計6サンプルを用いて,ショートリードのRNA-seq(Illumina)を行い,リファレンス配列へのマッピング結果も得られた. リファレンス配列の再構築を行ったため,次年度の予算の前倒し使用が必要となった.前倒し予算が利用出来るようになるまでに少し時間がかかったため,サンプルの送付が遅れたが,何とか予定通り,年度内に必要なデータを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
一重咲き品種と八重咲き品種の装飾花と非装飾花のショートリードのマッピングにより発現量の比較を行い,花弁状がく片の形成に関与する可能性の高い遺伝子の特定を行う.特定された遺伝子について,リアルタイムRT-PCR解析により更に詳細な発現比較を行い,花弁状がく片形成に関わる遺伝子の絞り込みを行う. 額咲きと手まり咲きの花房型の制御に関わる遺伝子の特定を行う.額咲き2品種と手まり咲き2品種の花芽を供試し,ショートリードのトランスクリプトーム解析を行う.これまでに得られている2組の額咲き原品種・手まり咲き変異系統の花芽のショートリードデータを加えて,マッピングによる発現比較を行い,花房型の決定に関わる遺伝子を特定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,次年度に行う予定のサンプルも加えて,トランスクリプトーム解析を行ったため,前倒し支払い請求を行った.トランスクリプトーム解析では,抽出したRNAを業者に送付して解析を受託するが,抽出RNAの精製度が低かった場合,新たにRNAを抽出し直して再送し,再びRNAの精製度のチェックが行われる.このRNAの再送付と品質チェックに費用がかかる.本研究では,合計12サンプル分のRNAについて解析を行ったが,念のため,一定数のサンプルについて,RNAの再送付と品質再チェックを行うことを想定して,前倒し予算を申請した.しかし幸いなことに,RNA品質チェックを1回でクリアしたので,余分な費用は発生しなかった.その結果,いくらか余剰金が発生した.しかし次年度の前倒し予算に対する余剰金であるため,次年度の実験計画に大きな変更は生じない. 次年度は,新たに4品種の花芽について,トランスクリプトーム解析を行い,その後リアルタイムPCRによる遺伝子発現量の比較解析を行う.
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