研究課題/領域番号 |
18K05632
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
永田 雅靖 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, ユニット長 (60370574)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダイコン青変症 / 網羅的遺伝子発現解析 / RNA-seq / インドールグルコシノレート代謝 / Raphanus sativus |
研究実績の概要 |
ダイコンの内部が出荷後の数日間で青く変色するダイコン青変症が全国的に発生し、市場関係者の問題となっている。これまでに申請者らは、青変症になりやすい品種と、青変症になりにくい品種を迅速に区別する検定法を発明し、特許化した。さらに、同検定法を応用して、ダイコンの成分から青色色素の前駆物質を、4-hydroxyglucobrassicinと同定した。そこで、本課題では、その原因遺伝子を特定し、発症機構を解明することにより、青変症になりにくいダイコン品種の育成に有用な基礎的知見を得ることを目的として実験を実施する。本年度は、青変しやすいダイコン品種(F)、青変しにくい (T)および、中間的な(Y)各3個体を用いて、それぞれの根からRNAを抽出精製し、NovaSeq 6000を用いたRNA-seq解析を行い、さらにマッピング解析を経て、各遺伝子ごとの発現量を求めた。これらの中から、トリプトファンを出発物質として4-hydroxyglucobrassicinに至るインドールグルコシノレート代謝関連遺伝子をピックアップして、品種ごとの発現量の差異を可視化した。その結果、青変しにくい‘耐病総太り’と、他の青変しやすい品種との比較では、glucobrassicinから青色色素の前駆物質となる4-hydroxyglucobrassicinおよび、青色色素の前駆物質にならない1-hydroxyglucobrassicinに分岐する部分のCYP81系遺伝子の発現量に有意な差が認められた。このことは、インドールグルコシノレートの代謝に関連する遺伝子の発現によって、青変しやすさが制御されているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
青変しやすいダイコン品種 (F)、青変しにくい (T)および、中間的な (Y)を用いて、RNA-seq解析を行った。マッピングには、ゲノム配列として、GCF_000801105.1_Rs1.0_genomic.fna.gz、遺伝子情報として、GCF_000801105.1_Rs1.0_genomic.gff.gzを用いて発現量を比較した。リード配列の90.8~95.6%がマッピングされた。61,226遺伝子について、発現のカウント数から、FPKM (Fragments Per Kilobase of exon per Million reads mapped)を算出したデータを使って解析を行った。アノーテーションのついたデータの中から、インドールグルコシノレート生合成に関連する酵素遺伝子および転写因子の発現について、3品種の比較を行ったところ、ほとんどの遺伝子(群)では、3品種の差が認められないか、あるいは一定の傾向が認められなかった。一方、他の品種に比べて顕著に青変症になりにくい品種(T)では、 glucobrassicin (GB)から、1-hydroxyglucobrassicin (1-OHGB)の生合成反応を触媒する複数の遺伝子が、特異的に多く発現していることが認められた。品種(T)が青変症になりにくいことを考え合わせると、この遺伝子が品種(T)に特異的に発現し、機能していることにより、青変症前駆物質である4-hydroxyglucobrassicin (4-OHGB)の蓄積が抑制され、青変症になりにくい結果に結びついているものと推定された。今後は,各ダイコン品種における関連遺伝子の部位による発現の差などを検討し、この仮説を実証していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
インドールグルコシノレート代謝関連酵素遺伝子等のリアルタイムPCRを行うため、複数の遺伝子について、リアルタイムPCR用のプライマーを設計し、合成したプライマーを用いて、予備的な遺伝子発現解析を行った結果、RNA-seqの結果と、リアルタイムPCRの結果が、必ずしも一致しないケースが多くあったため、現在、その原因について検討を進めている。今後、リアルタイムPCRとRNA-seqの結果が一致するよう、異なるPCRプライマーを設計し、品種や部位による発現量の差異を調べる。また、2019年度に、神奈川県が育成したダイコン品種‘湘白’が、青変しない特性を持っていることを新たに見出した。青変しない品種(遺伝資源)はごく限られているため、‘耐病総太り’(T)とともに、ネガティブコントロールとして用いて、品種、部位、栽培、収穫後など、青変症の発生にかかわる生理的メカニズムを明らかにすることによって、品種改良に役立つ知見を得るための実験を進める。また、栽培条件の影響など、青色色素前駆物質の高含有化についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサーを用いたRNA-seq解析が想定以上に順調に進み、追加試験が必要なくなったため、研究費を効率的に使用することができた。2020年度は、最終年度になるため、研究のとりまとめに必要な実験を行い、とくにリアルタイムPCRに関する、新しいプライマーを用いた遺伝子発現解析をさらに積極的に行うことにより、一層の研究の深化に努め、効率的な研究の推進を図るとともに、研究成果の発信を積極的に行う。
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