研究実績の概要 |
高等生物ミトコンドリアゲノムへの安定的な遺伝子導入法は未だ確立されていない。申請者らのグループは、ミトコンドリア移行ペプチドとポリカチオン性ペプチドを融合した人工ペプチドに外来遺伝子を結合させた複合体を用いて、植物ミトコンドリアへの一過的な遺伝子導入に成功している(Yoshizumi et al., Biomacromolecules, 2018)。しかし、その導入効率は低く、ミトコンドリアゲノム形質転換体を作出するには至っていない。そこで、申請者は、人工ペプチドを用いたミトコンドリアへの遺伝子導入効率を向上させる化合物をスクリーニングすることを本研究の目的とした。化合物のスクリーニングにはそれぞれ、東京大学創薬機構より分与していただいた約10,000種類の化合物、および、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所より分与していただいた約10,000種類の化合物から構成される化合物ライブラリーを用いた。NanoLucルシフェラーゼ遺伝子(Promega Co., Madison, WI, USA)を組み込んだプラスミドと融合ペプチドの複合体を作成し、化合物と同時に、京都伏見寒咲花菜(Brassica campestris、タキイ種苗)の播種後7日目の子葉に導入し、翌日、発光により遺伝子導入効率を検出した。その結果、東大化合物ライブラリーより18化合物、名大化合物ライブラリーより15種類について、遺伝子導入効率が向上することを明らかにした(n = 1)。これらの化合物について個別に購入し、追試験を行った結果(n = 5)、全ての化合物で再現性が得られなかった。このことは、植物ミトコンドリアへの遺伝子導入効率には個体差があり、化合物処理による遺伝子導入効率の向上が安定しなかったことが一因であった。東大化合物ライブラリーから選抜された1化合物は市販されていなかったため、再現性は確認できていない。
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