本研究では,イネいもち病菌におけるストロビルリン系殺菌剤(QoI剤)耐性変異の発生,遺伝,蔓延のメカニズムを明らかにすることで,薬剤の導入→耐性菌の発生→新薬剤の導入の「いたちごっこ」からの脱却を目指すことを目的としている. まず,昨年度作成したオルタナティブオキシダーゼの欠損株を用いて,mtDNA cytbコドン143変異の誘導を行った.UV照射の条件を検討した結果,100 mJ/cm2で50%の死滅率を示した.この強度を用いて異なるタイミング(胞子形成後,胞子形成を始める時期など),対象(胞子あるいはプロトプラスト)のUV照射を試みたがいずれもの場合も変異の誘導を行う事が出来なかった.以上のことから,自然界で起きているAz耐性株の出現を実験室条件で再現することは困難であり,さらなる検討が必要である事が分かった. Az耐性株と感受性株のプロトプラストを融合させ, 野生型,変異型のミトコンドリアが共存している3株を得た.融合株を胞子形成させ,単胞子分離した株では全てが野生型か変異型のどちらかのミトコンドリアを保有し,ホモプラスミーが確認されたが,胞子形成をさせず,プロトプラストから再生させた株では2種のミトコンドリアの共存が観察された.一方,昨年度作成したGFPによるミトコンドリア可視化菌株を用いて,分生子形成初期のミトコンドリアの観察を行ったところ,分生子形成初期には,菌糸からチューブ状のミトコンドリアが初期分生子内に送り込まれ,形成開始後100分で,分生子と分生子柄の間に隔壁が形成され,分生子内のミトコンドリアもドット状に分裂する事が観察され,初期に送り込まれたチューブ状ミトコンドリアが分生子のミトコンドリアとなる事が確認された.以上のことから,いもち病菌ミトコンドリアのホモプラスミー化には分生子形成が大きく関わることが示唆された.
|