平成30年度は、存在意義が謎であるシロイヌナズナの表皮葉緑体について、病原微生物に対する免疫応答との関連性に言及した。まず、不適応型の炭疽病菌に応答してシロイヌナズナの表皮葉緑体が細胞表層に出現する現象(葉緑体応答)に関与する植物因子の同定を試みた。葉緑体の光定位運動の制御因子が関与する可能性を検証するため、光定位運動においてアクチン繊維の重合(または維持)とそれを制御するCHUP1の関与を解析した。その結果、chup1変異体の表皮細胞では、定常状態で葉緑体が表層側に出現しており、炭疽病菌接種後も出現数に変化がないことが判明した。また、CHUP1過剰発現株(CHUP1ox)を作出すると、葉緑体応答は起こらずほとんど表層には出現しなかった。これらの結果より、CHUP1が炭疽病菌に対する葉緑体応答を負に制御していることが明らかとなった。次に、葉緑体応答の植物免疫への関与を検討するため、pen2chup1およびpen2CHUP1ox植物を作出したところ、これらの変異体では不適応型炭疽病菌の表皮細胞への侵入率がpen2に比べて上昇し、トリパンブルー染色による過敏感反応様細胞死もpen2より増加していた。細胞レベルで観察を行った結果、不適応型炭疽病菌の侵入菌糸は侵入細胞より外側には進展せず封じ込められており、侵入した表皮細胞において局所的な細胞死が起こっていた。以上の結果は、葉緑体応答が不適応型炭疽病菌に対する植物免疫に関与していることを示唆している。
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