我々は、病害抵抗性誘導剤で処理したカルスから植物を再生させることにより、イネのエピジェネティック変異を方向付ける方法を開発した。この方法により、交配育種を用いずに安定的に病害抵抗性表現型が遺伝する植物を作出できる可能性がある。そこで本研究では、この方法によって付与された抵抗性がエピジェネティック変異に起因することを証明するとともに、その遺伝的な安定性と実用性を実証することを目的に実験を行った。得られた成果は以下の通りである。 1)対照処理イネ系統0-0-4株および抵抗性獲得イネ系統150-0-2株のRNA-seq解析より、抵抗性獲得個体において有意に発現上昇する遺伝子が222、発現低下する遺伝子が309認められた。 2) 抵抗性獲得個体で有意に発現上昇が認められる遺伝子について遺伝子オントロジーエンリッチメント解析した結果、response to stimulus、response to biotic stimulusおよびresponse to stressの生物的プロセスに関与する遺伝子が有意にエンリッチされていた。 3)日本晴、対照処理イネ4株および抵抗性獲得イネ4株について全ゲノムメチル化解析を行い、各系統のメチル化状態についてクラスター分析を行った結果、抵抗性獲得系統は日本晴や対照イネ系統とは異なるクレードを形成し、特有のメチル化変化を獲得していることが明らかになった。RNA-seqおよび全ゲノムメチル化解析の結果を比較検討した結果、抵抗性獲得系統に特有のメチル化変化には遺伝子発現上昇を説明できるものが含まれ、プロモーター領域のメチル化変化と遺伝子の発現変化が相関する4つの遺伝子が特定された。 4)以上の成果を根拠として、本法による抵抗性植物作出方法を「遺伝子の発現が誘導された非天然の植物およびその生産方法」として国際特許出願した(PCT/JP2020/017159)。
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