研究課題
活性酸素種(ROS)の主要な産生酵素として、細胞壁ペルオキシダーゼや細胞膜 NADPH オキシダーゼがよく知られているが,MAMP 誘導性の ROS バーストにおけるそれらの貢献度や相互作用などについては依然不明の部分が少なくない。今年度は,シロイヌナズナの細胞壁ペルオキシダーゼ PRX34 について,挿入位置が異なる 3 種の T-DNA 挿入系統からヌル変異体 prx34-3 を選抜し、細菌由来の flg22、elf18、ペプチドグリカンならびにリポ多糖、病原糸状菌由来のキチンやキトサンで誘導される ROS バーストについて調べた。その結果、初発の ROS 生成は野生型植物と比べて 60~80% 低下し、残存する発光は DPI 感受性であった。同様の結果は、傷害関連分子パターン Pep1 の処理でも認められたことから、MAMP/DAMP 誘導性の ROS バーストにおいて細胞壁ペルオキシダーゼも NADPH オキシダーゼと同様にパターン認識受容体(PRR)の制御下にあり、両酵素が同調して ROS バーストが誘導されていることが明らかとなった。一方で、エンドウ褐紋病菌を不適応型病原菌としてシロイヌナズナの基礎的抵抗性について研究する中で、本菌の柄胞子発芽液中に ROS の生成を誘導する強いエリシター活性を見出した(以下、本画分を MpGFE と称す)。MpGFE で処理した植物体には ROS バースト以外にもカロース生成が顕著に誘導され、適応型病原菌に対する抵抗性が誘導された。興味深いことに,MpGFE 誘導性の ROS バーストやカロース生成は、キチンオリゴ糖に対するパターン認識受容体 CERK1 や ROS 産生酵素 RBOHD の欠損変異体でも認められた。以上から、MpGFE 誘導性のシロイヌナズナの免疫にキチン以外のエリシターの関与を示すとともに、CERK1 や RBOHD を介さない未知の認識・シグナル伝達機構の存在が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
植物感染生理学研究の分野では 2000 年以降、細胞膜に存在する受容体(PRR)や下流因子の同定に関心が寄せられてきた。このような状況の中、申請者らは植物細胞壁に存在するエクト型 ATPase や細胞外ペルオキシダーゼが病原体に対する異物認識や応答に深く関連し、植物細胞壁が「異物認識と応答を行う最前線の防人器官」として提唱してきた。本研究課題では、シロイヌナズナの細胞壁ペルオキシダーゼの1つである PRX34 に注目し、そのヌル変異体の選抜と同変異体の病原体に対する応答について詳細に解析を進め、PRX34 が細胞膜の NADPH オキシダーゼと同様に複数のパターン認識受容体(PRR)の制御下にあり、両酵素が同調して ROS バーストが誘導されていることを突き止めた。一方で、細胞表層から開始される免疫応答の研究の中で、既知の PRR を介さない(必要としない)新たなカビの認識機構の存在についても明らかになりつつある。次年度は、細胞膜 PRR からによる PRX34 の活性調節を含め、細胞表層で開始される異物認識と応答機構の全容の解明に向けて、生理・生化学および遺伝学的解析を進めていく予定にしている。
異物認識と応答における植物細胞壁の関与については、これが含む巨大複合体構成の存在によってすでに示唆されている。構成因子の1つであるペルオキシダーゼについては、細胞壁からの可溶化後もエリシターやサプレッサーに対する応答性を保持しており、さらに同複合体に含まれる ATPase によって一義的に調節される。二次元 Blue-Native PAGE 後の質量分析によって推定された構成因子のうち鍵となる分子についてはヌル変異体の選抜と表現型解析について引き続き進め、状況に応じて既知のシグナル変異体を利用して他の情報伝達系とのクロストークについて解析する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件)
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