前年度までの研究によって、酸化マグネシウム(MgO)懸濁液で前処理した萎ちょう病感受性品種のトマト苗にトマト萎ちょう病菌(FOL)を接種すると、ジャスモン酸(JA)シグナル伝達経路依存性の強力なトマト萎ちょう病抵抗性が誘導されることがわかった。また、この抵抗性には、JA酸シグナル伝達のマスター制御因子であるMYC2およびその下流の転写因子が関与していることが示唆された。2020年度は、MgOで前処理したトマトおよび無処理(対照区)トマト苗にFOLを接種し、接種直後の遺伝子発現をRNAシーケンシングによって比較・解析した。その結果、MgOが誘導するトマトの萎ちょう病抵抗性には、MgO前処理によって誘導されるdamage-associated molecular pattern-triggered immunity(DTI)、およびFOL接種によって誘導されるpathogen-associated molecular pattern-triggered immunity(PTI)が相乗的に作用していることが示唆された。また、MgO処理したトマト苗の根にFOLを接種した際に特異的に発現が誘導された遺伝子の中から、とくに迅速で顕著な発現を示したグリシンリッチタンパク質(GRR)遺伝子に着目し、ペプチドを合成してウサギを免疫し、抗GRR抗体を作製した。得られた抗GRR抗体を用いて免疫ブロッティングおよび免疫組織染色を行った結果、MgOで前処理したトマト苗の根では、FOL接種直後からGRRの遺伝子発現が起こり、24時間以内にGRRが維管束周辺に蓄積することが明らかになった。トマトの根におけるGRRの機能は不明であるが、トマト萎ちょう病抵抗性に関与している可能性があり、今後さらに詳細な研究を行うべきと考える。
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