研究課題
植物においてペアで機能するNLR免疫受容体は、一般に平常状態ではNLRペアの片方がもう片方のNLRの活性を抑制しているが、病原体エフェクターの認識によってこの抑制が解除されて免疫反応が誘導されると考えられている。しかしながら、この機構が全てのNLRペアに共通しているかは分かっていない。本研究では、AVR-PikDエフェクターを発現するイネいもち病菌に対して抵抗性を付与するイネNLRペアPikp-1/Pikp-2のエフェクターによる活性化に、両NLRが協調して機能することが重要であり、それによって免疫反応が誘導されることを明らかにした。Pikp-1/Pikp-2活性化の機構を調査するために、これらのタンパク質の欠失変異体とNLR配列に共通するモチーフの突然変異体を作製した。Pikp-1とPikp-2のどの領域が欠失しても、AVR-PikDの存在下でモデル植物Nicotiana benthamiana葉において過敏感細胞死が誘導されなかったことから、全ての領域が植物免疫反応の活性化に必要とされることが明らかとなった。さらに、Pikp-1またはPikp-2のどの領域を発現させてもN. benthamiana葉において細胞死を生じなかった。Pikp-1とPikp-2に含まれるNLR共通のP-loopとMHD配列モチーフにおける変異によって細胞死誘導能が失われたことから、これらのモチーフはNLRの機能に重要であることが証明された。また、Pikp-1とPikp-2はAVR-PikDの非存在下においてin plantaでホモおよびヘテロ複合体を形成し、AVR-PikDとの共発現ではエフェクターがPikp-1と結合して三者間の複合体を形成する。以上の結果から、Pikp-1とPikp-2は、負の制御ではなく、受容体が協調してAVR-PikDの認識によって活性化されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
①「イネいもち病菌の異なるエフェクターに対するイネNLR免疫受容体の交差反応は部分的な抵抗性をもたらす」植物のNLRsに組み込まれている特殊な領域(Integrated Domain: ID)は、病原体から分泌されたエフェクタータンパク質を直接認識し、免疫反応を誘導する。イネNLRペアであるPik-1/Pik-2とRGA5/RGA4は、いずれもIDとしてHeavy Metal Associated(HMA)領域を持ち、このHMA領域でイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)エフェクターAVR-PikとAVR-Piaをそれぞれ認識する。AVR-PikとAVR-PiaはMAX(Magnaporthe Avrs and ToxB-like)エフェクターファミリーに属し、主要な立体構造は保存されている。イネのNLRペアPikp-1/Pikp-2がミスマッチのエフェクターであるAVR-Piaに対してin plantaで免疫反応を誘導し、Pikp-HMA領域はin vitroでAVR-Piaと結合することを明らかにした。AVR-Piaと結合したPikp-HMAの結晶構造は、AVR-Pikエフェクターとの結合と比較して異なる結合接点を示し、この結果はID/エフェクター相互作用の適応性を示唆する。一つのNLRがIDを介してどのように複数の病原体エフェクターを認識するのかを見出し、多様なエフェクターを認識できる免疫受容体の人工設計の可能性を示し、JBCに発表した。②「イネNLRペアPikp-1/Pikp-2は負の制御ではなく受容体の協調した働きによって細胞死を誘導する」Pikp-1/Pikp-2 NLRペアは抑制/活性化の機構ではなく、受容体が協調して働き、in plantaでのシグナリングにはP-loopとMHD様配列を含む全長タンパク質が必要とされることが明らかとなった。
イネ抵抗性品種は多数育成されているが、いもち病菌は移入や変異を繰り返すことにより十分な防除効果が得られていない。さらに地球温暖化が進む中で、既報の抵抗性遺伝子が機能し得るのか、病原菌の高温適応が起きているのか明らかとされていない。いもち病抵抗性は病原菌が保有するAVRエフェクターとイネが保有するNLR免疫受容体との認識により規定される。いもち病菌の高温適応については、接種条件としてこれまで適温とされてきた温度(25~26℃)から、地球温暖化による気温上昇を想定して複数の温度条件を設定し、発病過程にどのような影響を及ぼすのか評価する。発病過程については、二つのフェーズに分けて解析を行う。一つは、いもち病菌そのものの侵入・発病能力について、形態・物質代謝能力・遺伝子発現パターンについて評価を行う。もう一つは抵抗性関係を規定するAVR/NLR間の認識・結合能力に関して高温による影響が生じるのかどうか評価する。これには、イネを用いてNLR機能の温度による影響を評価する。さらに、AVR/NLR結合・認識能力を評価するために、N. benthamianaを用いてin plantaでの複合体形成および過敏感細胞死の誘導について解析する。
「次年度使用額が生じた理由」実験補助として人件費を計上していたが、良い人材が見つからず、不要になった。令和2年度日本植物病理学会において発表する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって開催中止で「みなし発表」となり、学会参加費および旅費が不要になった。また、もう一報国際共著英語論文を投稿する予定であったが、現在投稿準備中であり、論文投稿費が不要になった。「次年度使用額の使用計画」消耗品費を計上する。現在論文投稿準備中の英語論文投稿費に支出予定である。また、国内および国際学会参加費と旅費も支出予定である。
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Molecular Plant Pathology
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https://doi.org/10.1111/mpp.12869
Journal of Biological Chemistry
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