研究課題/領域番号 |
18K05658
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
奥野 哲郎 龍谷大学, 農学部, 教授 (00221151)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 殺菌剤 / フェリムゾン / 作用機作 / 薬剤耐性 / いもち病菌 / ウリ類炭疽病 / メラニン化 / 銅トランスポーター |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、未だ圃場耐性菌の報告のない静菌的作用を示す殺菌剤フェリムゾンの作用機作を明らかにし、耐性菌が出現しない新規薬剤開発のためのターゲットを明らかにすることである。本研究ではアグロバクテリウム形質転換法を用い、ハイグロマイシン耐性を指標にT-DNA挿入変異株を作出して、フェリムゾン感受性が低下した株の遺伝子を同定し、それらの遺伝子機能と薬剤耐性の関係を明らかにする。これまでに、耐性候補株としてリストアップされたウリ類炭疽病菌の候補遺伝子の1つで銅輸送に関わるCoICT1遺伝子とCoICT1から銅を受け取ると考えられる銅イオン輸送P型ATPase(銅シャペロンタンパク質)をコードするCoCCC2遺伝子の破壊株がフェリムゾン感受性低下を示したことから、CoICT1遺伝子銅輸送系がウリ類炭疽病菌のフェリムゾン感受性に関わることを明らかにしてきた。今年度は、イネいもち病菌においても同様の遺伝子がフェリムゾン耐性に関わることを明らかにした。また、CoICT1遺伝子とCoCCC2遺伝子の破壊株がいずれもメラニン欠損のアルビノタイプの表現形を示し、植物への病原性を失っていた。このことから、フェリムゾン耐性と菌の病原性発現能力の間にはトレードオフの関係が成立することが示唆された。また、フェリムゾンと銅イオンの共存が耐性菌の菌糸伸長をほぼ完全に阻害することが分かった。そこで、ウリ類炭疽病菌の培養菌糸における銅などの重金属含量をICP分析により測定した。その結果、硫酸銅とフェリムゾンを同時に処理するとフェリムゾン耐性であるcoict1株特異的に銅イオン含量が増大することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネいもち病菌(P2株とHoku1株)においてもウリ類炭疽病菌と同様ICT1遺伝子とCCC2遺伝子の破壊株、moict1株とmoccc2株を作成することができた。また、いもち病菌の病原性を確認できる系をいもち病に対して高い感受性を示すオオムギ(品種Nigrate)を利用することで確立できた。ICT1とCCC2タンパク質の細胞内局在性を調べるためそれぞれでGFP融合タンパク質を発現するウリ類炭疽病菌を作成できた。ICT1遺伝子とCCC2遺伝子の破壊いもち病菌株はウリ類炭疽病菌と同様、いずれもメラニン欠損のアルビノタイプの表現形を示し、植物への病原性を失っていた。このことから、いもち病菌株とウリ類炭疽病菌いずれにおいてもフェリムゾン耐性と菌の病原性発現能力の間にはトレードオフの関係が成立することが示唆された。また、フェリムゾンと銅イオンの共存がフェリムゾン耐性菌の菌糸伸長をほぼ完全に阻害することを明らかにした。これらのことから、研究は予想通り進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ICT1とCCC2を含む銅輸送系がフェリムゾン感受性に関わることが明らかとなったことから、ICT1あるいはCCC2と相互作用するタンパク質を詳細に調べる必要がある。そのためにはタグ付きICT1およびCCC2を作成し、免疫学的手法に結合タンパク質を分離し、質量分析等で解析する。また、ICT1とCCC2の細胞内局在性に及ぼすフェリムゾンの影響をさらに詳細に調べる必要がある。さらに、フェリムゾン処理がイネいもち病菌およびウリ類炭疽病菌の遺伝子発現にどのような影響を与えるのかをRNAseqで調べると興味深い結果が得られる可能性がある。 また、フェリムゾンを含むPDAなどの寒天培地でいもち病菌を培養すると非常に高い確率で薬剤耐性セクター株が得られる。今後、このようなセクター株の全塩基配列を明らかにし、野生株と比較することにより、フェリムゾン耐性関連遺伝子をさらに同定していく予定である。
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