本研究の目的は、未だ圃場耐性菌の報告のない静菌的作用を示す殺菌剤フェリムゾンの作用機作を明らかにし、耐性菌が出現しない新規薬剤開発のためのターゲットを明らかにすることである。本研究ではアグロバクテリウム形質転換法を用い、ハイグロマイシン耐性を指標にT-DNA挿入変異株を作出して、フェリムゾン感受性が低下した株の遺伝子を同定し、それらの遺伝子の機能と薬剤感受性の関係を明らかにする。これまでに、感受性低下株として選抜したウリ類炭疽病菌の解析から、銅輸送に関わるCoICT1遺伝子とCoICT1から銅を受け取ると考えられる銅イオン輸送P型ATPase(銅シャペロンタンパク質)をコードするCoCCC2遺伝子がフェリムゾン感受性に関わることを明らかにしてきた。また、CoICT1遺伝子とCoCCC2遺伝子破壊株のいずれもがメラニン欠損のアルビノタイプの表現形を示し、植物への病原性を失っていた。一方、フェリムゾンと硫酸銅が共存すると耐性菌の菌糸伸長は、ほぼ完全に阻害されることが分かった。そこで、ウリ類炭疽病菌の培養菌糸における銅などの重金属含量をICP分析により測定した結果、硫酸銅とフェリムゾンを同時に処理するとフェリムゾン耐性株において銅イオン含量が増大することが分かった。本年度は、イネいもち病菌のMoICT1遺伝子とMoCCC2遺伝子破壊株を用い銅輸送系とフェリムゾン感受性の関係を解析した。その結果、イネいもち病菌においてもウリ類炭疽病菌と同様の結果が得られることを実証した。このことから、重要病原体であるイネいもち病菌やウリ類炭疽病菌糸状菌におけるフェリムゾン耐性と菌の病原性発現能力の間にはトレードオフの関係が成立することが明らかとなった。
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