植物の真性抵抗性遺伝子(R遺伝子)の活性化により誘導されるETI(effector-triggered immunity)の発動制御因子の特定及びその分子機構の解明を目指し、イネいもち病菌に対するETIの誘導が不完全なイネ変異体3系統(ttm5、ttm11、ttm13)について、原因遺伝子の単離を進めた。 最終年度は、これまでに同定した2つの候補遺伝子について、ゲノム編集による遺伝子破壊(KO)系統T2種子を用いてETIに対する応答を解析した。これらのKO系統では、コントロール植物に比べてETIが減少する傾向がみられた。これまでの結果と合わせ、これらの候補遺伝子が原因遺伝子であることが強く示唆された。しかしながら、KO系統群による解析では接種検定による表現型が不安定であったため、変異体背景への相補試験に向けた形質転換イネを作成した。今後これらの相補系統を用いてより詳細な解析を実施することとした。また、これらの変異が、さまざまなR遺伝子によるETIの誘導に対して影響を与えるか解析するため、複数の異なるいもち病R遺伝子を持つ品種を遺伝背景として、それぞれの候補遺伝子のKO系統を作成した。3つのR遺伝子によるETIへの影響を解析したところ、いずれも顕著なETIの抑制は見られなかった。このことから、これらの原因遺伝子は、変異体の選抜時に用いたR遺伝子“Pish”に対して特異的な役割を持つことが示唆された。 我々は、本研究期間を通して、3つの変異体の原因遺伝子を特定した。そのうち2つは同一の遺伝子の異なるアリル変異であった。これらの遺伝子によりコードされるタンパク質は、いもち病菌に対するR遺伝子“Pish”によって誘導されるETIの制御に特異的に関与していることが示唆されたことから、これらの遺伝子がコードするタンパク質は、Pishと直接的な相互作用する因子である可能性が考えられた。
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