本研究は、ハマダラカの宿主探索行動や吸血行動などを抑制する、昆虫寄生菌の行動制御機構の分子基盤を明らかにすることを目的としている。自然界では、寄生者が宿主の行動を操作する行動制御という生物現象が知られている。これまでに申請者は、ハマダラカにおいて、昆虫寄生菌の感染により、感染症の媒介に必須である各種行動が制御されることを明らかにした。本研究課題では、昆虫寄生菌の異なる系統や培養方法を用いることで、この行動制御の発現を人為的にコントロールし、昆虫寄生菌の培養ろ液中に産出される代謝産物の比較解析と行動解析の組み合わせにより、行動制御関連因子および遺伝子を同定することを目指す。 昨年度、B. bassiana60-2の経皮感染力の消失を受け、菌投与方法の検討を行った結果、経口投与による腸管からの感染が認められたことから、経口投与による実験系を運用して研究を進めた。また、胞子懸濁液の経口投与において感染性が認められたのに加え、菌培養濾液の経口投与でも毒性が確認された。したがって、菌培養濾液中になんらかの致死因子が含まれることが考えられ、その毒性は菌の培養条件によってコントロール可能であることを見出した。培養条件は、ツァペックドックス培地にイースト抽出物を入れるかどうかでコントロールすることができる。イースト抽出物入培地の培養濾液をSDSーPAGEにかけたところ、特異的なバンドが検出されたことから、3.5kDaの透析チューブによるバッファー交換を行なって経口投与したが、毒性が失われたため、より分子サイズの小さい化合物が疑われた。現在、液体クロマトグラフィー による物質同定を進めている。一方、培養条件を変えて生育させたB. bassiana60-2間のトランスクリプトーム解析を実施し、合計3755の発現変動遺伝子を検出した。こちらに関しても、解析を進めている。
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