昆虫の血球細胞は、体内に侵入した病原微生物などの異物に対して、貪食や包囲化と呼ばれる免疫反応によって、対処する。この2種類の反応は、対象異物のサイズによって使い分けられているとされているが、血球細胞がどのように異物のサイズを認識しているかについての情報はない。我々は包囲化反応を促進する血球細胞がどのように異物のサイズを認識しているのかを明らかにすることを目的としている。 本年度は、昨年度のトランスクリプトーム解析によって得られた血球に発現する遺伝子のうち、包囲化反応において異物の周囲にカプセルを形成する血球細胞で特異的に多く発現する遺伝子に焦点をあて、その遺伝子構造や機能解析を行っている。カプセルを形成する細胞では、細胞接着に関与する遺伝子群のうち、数種類のみが特異的に発現していることがわかり、これらが包囲化反応に特異的な遺伝子であることが示唆された。現在RNAi法によるノックダウン実験を行っており、カプセルの形成過程にどのような影響を与えているかを調べている。 さらに昆虫免疫では全く機能が知られていないが、カプセルで特異的に多く発現している遺伝子を見出すことができた。これについては、フルシークエンスを明らかにし、前述の遺伝子同様にノックダウン実験による機能解析を試みている。 本研究により、昆虫の細胞性免疫に関わる複数の新規遺伝子群を得ることができた。細胞性免疫の分子機構において、貪食もしくは包囲化に向かう血球の運命決定機構は全く明らかにされておらず、それらの遺伝子の機能を調べることで、細胞性免疫システムの制御機構が明らかにされ、液性免疫システムの制御と照らし合わせることで、昆虫免疫の全体像を浮かび上がらせることが可能となる。
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