本研究は、寄生蜂 A. japonicaが、宿主ショウジョウバエの幼虫に寄生する際に、宿主幼虫の体内にある将来成虫 となる組織(成虫原基)において細胞死を誘導する物質 Adidas を同定することを目指している。 2020年度は、寄生蜂毒腺の抽出液を用いて、陰イオン交換クロマトグラフィーを行い、毒成分を分画した。分画液を脱塩濃縮して、宿主幼虫(非感染)に顕微注入し、細胞死誘導活性の有無を生物検定によって検出した。そして、Adidas を含む分画に対して質量分析を行った。また、RNA seq解析により、毒腺で高発現する遺伝子群を同定した。 質量分析の結果、171個の遺伝子産物が同定された。そのうち、118 個は、毒腺で高発現する遺伝子と一致した。逆に、毒腺で高発現する遺伝子の上位100個のうち、91個が質量分析によっても同定された。この結果から、毒腺に存在する遺伝子産物の網羅的な同定にはほぼ成功したと考えられた。一方、細胞死誘導活性と関連する分子は見出せなかった。今後、さらなる条件で Adidas 候補を絞り込む必要がある。 また、本研究では、Adidas 遺伝子の機能解析を行う目的で、寄生蜂幼虫への2重鎖RNA(dsRNA)の顕微注入による RNA 干渉法の構築に成功した。まず、RNA干渉の効果を検証するため、昆虫体表面の色決定に関与する遺伝子 ebony を同定した。そして、寄生後6日目の寄生蜂幼虫に ebony を標的とする dsRNA を顕微注入したところ、成虫の体表面の色味が変化した。この結果は、A. japonica でのRNAi に成功した初めての成果であり、Adidas 遺伝子をはじめ、様々な寄生蜂遺伝子の機能解析に有効な手段であることが強く示唆された。
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